インチキ占い師

 大学時代の友人にちょっと変わったやつがいた。
 心理学を専攻しているのだが、それを利用して仲間にいろいろなゲームをしかけては反応を見ては楽しんでいる。
 しかもそれをちゃっかり、自分の論文に利用したりするというやつ。
 しかもこいつ、大の心霊嫌い、幽霊や何かは全部厳格化心理的なものが起因している、というのが口癖だった。
 それに奴が忌み嫌っていたのは「占い」。
 ……あんなものは心理学を応用すればだれでもできるし、統計学を理解してれば、だれでも適当に当たるもんだ、と言い切った。

 そいつが大学3年生の文化祭で、自分の理論を立証するために「占い喫茶」の模擬店を出すと言い出した。
 面白そうなのでスタッフに参加してみた。
 おひとり様15分、ワンドリンク付き500円でスタートしたら結構人が集まってくる。ほとんどが女子大生ばかり。
 奴は相談者が腰を掛けると神妙な顔つきで言う。
「あなたは見た目と裏腹で、実は古風なお嬢様ですね」とは、いわゆるギャルへ。
 真面目そうでおとなしそうな子には、「あなたには秘められた熱い情熱がありますね」……とか、これが掴みである。
 要は見た目と逆を言えば、ああこの人は私の本質を見抜いているんだ……と錯覚してしまうというわけ。相談内容も。
 若い女の子が気軽に立ち寄るとすれば、恋愛運が大半だろう。
 これに関しても、どんどん相手に鎌をかけて話をさせて、時々訳知り顔のアドバイスをするだけ。
 カップルで来た客には「倦怠期に入らないためには……」「喧嘩はしなさい、もっとお互いのことが分かり合えるから」とか、聞いているこちらが恥ずかしくなるようなことをくっちゃべって終わり。
 15分の相談時間も、長引けはぼろが出るからそうしただけの話。
 おあとは多少いじったことのあるタロットカードを、さも意味ありげに使い、引いたカードで先行きをアドバイスするだけ。
 これでも客は意外と満足して帰っていくものである。

 結局はそいつの持論を立証するために付き合ったようなものだが、学園祭も終わりに近づいたころ、最後の客が来た。
 きわめて小柄で、見た目は中学生にも見えるような幼い感じの子。こりゃ簡単にかもれるな、と思ったやつは、おもむろにやりだした。
「ええ、あなたは大変かわいらしく見えますが、精神的には非常に大人の部分を持っておられますね」
 さてお悩みはと聞くと「昔好きだった人がどうしても……」という。
 これはしめたもの、と「物事は絶えず、前向きに考えねばなりません。あなたの前途には……」とタロットを取り出すが、奴の顔色がだんだんおかしくなってきた。
 何度やっても「死」を意味するカードしか出ない。
 それを黙ってみていた相談者が、初めてニタァという感じの笑みを浮かべて一言「大ウソつき!」
 茫然として立ち直れない奴に相談者は言い放った。
「私が生きてるか死んでるかもわからないで、よくこんなことがやれるわね。
今日見た中に、どれだけ私の仲間が混じってたか分かってたでしょ」と言い放つと、彼女の姿はかき消すように消えた。
 慌てて私はブースを離れたが、少し遠くから見たら、奴のところだけ、大量のオーブと思われる物体が飛び回っていた……。

 後日談としては、奴は大学を去った。
 心理学科学万能という考えが否定され、大学院から研究者へ、という夢もたった一度の体験で打ち砕かれてしまったのだから、仕方がないといえば仕方がないか。

朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル
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