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さしのばした

小さい頃から見ていた夢があるんです。
知らない社への石階段を幼い私が歩いてるんです。
一歩、また一歩と。
一生懸命小さな足で歩いてるんです。
手前には 狐のお面をしている男の子がいるんです。
時々こちらをちらりとみては にこにことしているんです。
差し出した手を握った瞬間から どれだけ山で神隠しにあっても
3日もすれば 家に帰りつくことが出来ました。

小さな頃は 周りが森や山や畑しかない所に住んでいました。
おじいちゃんおばあちゃんしかおらず
自然と私は犬の散歩や畑仕事を手伝うようになりました。
森の中を歩く。 犬のリードを離さないように歩く。
家の裏の山を歩く。 森の音がこだまして 色んな音が私を包みます。
ノイズやチャンネルを合わせないように。
慎重に慎重にずらして音を聞いて聞いて。 歩く。
慎重にずらして選んでも。 遊びたがるこはおおいもので。
本日もそう。 出会ってしまったのです。
「あそぼうよ」 ゆらゆらと揺らぐ影に気付かないふりをして 横を通り過ぎる。
耳元で囁かれても気付かないふり。
犬を繋いでいたリードが切れた。
犬は尻尾を丸めたまま、一直線に走り出す。

自然に追いかけるふりをして走り出した瞬間に。 世界は暗転した。
聞こえる問いかけは聞こえないふり。
反応はせずにじっと耐える。
覗き込まれても悲鳴でも泣き声でもそれを無視。
無視しないと私は、 私は。
「助けてあげようか?」 優しい声が耳をなぞった。

「助けてあげるから全部ちょうだい」
「あげられるものなんてないよ」
「あるよ。×××は×××は×××で、欲しいんだ」
「そう」
「助けてあげるから。ずっとともだちでいてね」

それから。 次に目が覚めた時は自室の天井が目に入った。
彼はずっと見ている。 私を通して世界を見ている。
愉しげに滑稽だと笑う。 泣くことはなく笑う。 嫌うこともなく。笑う。
笑いながら 壊していく。 私を護りながら。
忘れそうになると最悪を災厄を振り撒きながら。
静かに静かに縛っていく。
にこやかに。 にこやかに。
慎ましく慎ましく。
ただ微笑みを浮かべている。

朗読: 朗読やちか

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