おばさんの嘘

このお話は、私のもっとも古い記憶の中の恐怖体験です。

皆さんが初めて体験した恐怖ってどんなものでしたか?

私がまだ小学生にあがる前の話です。

父の妹である私の叔母は霊感が強く、私に会うたびにいつも不思議な話をしてくれました。

旅行なのか仕事なのか理由を覚えていませんが、私が叔母の家に預けられた日の事です。

その日は朝から雨が降ったり止んだりを繰り返しており、

私が眠る時間にも、ぴしゃぴしゃと、屋根をたたく雨の音が聞こえていました。

私は部屋を暗くして兄と二人で布団に入っていると、叔母が部屋のドアを静かに開けました。

私は叔母の話が聞きたくて、

「こわいいはなしききたい」とはしゃぐと、隣で寝ていた兄は怖がって布団にもぐってしまいました。

叔母は笑って、私を窓の近くにつれていきました。

カーテン越しには、さきほどより大きな雨粒が窓をたたいていました。

「今日は来るかなぁ」

叔母はつぶやきました。

「だれかくるの?」

私はきくと、

「いつもね、雨の日にだけ来る男の人がいるんだよ」

叔母は当然のように言うので、

「その人おばさんの好きな人なの?」と、聞きました。

叔母はにこにこしながら、

「むしろおばさんの事が好きな人って感じかなぁ」と答えました。

叔母の話をまとめると、いつからかはわからないが、

その男は雨が降ると、必ず玄関のドアをたたくのだそうで、

叔母はドアを開けたことがないそうですが、それが男だと言うことはわかるのだと言うのでした。

「なんであけないの?にんげんかもしれないじゃん!雨ふっててかわいそうだよ」

と私が言うと叔母は、

「だって、人間だったらチャイムをならすでしょう?」

と、にっこりほほえみました。

私はふいをつかれ、あまりにびっくりして、兄の布団にもぐりました。

その様子を見ていた叔母は吹き出し、ゲラゲラと笑いだしました。

「ごめんねぇ、怖かった?いまの話、ぜーんぶ嘘だよ」

私はほっとして、なんだぁ、と笑いました。

そして叔母とおやすみを言い、叔母は部屋のドアを開けました。

すると突然玄関から、 ドンドンドン!と、大きな音が聞こえました。

叔母の動きが一瞬止まり、私の心臓は爆発寸前でした。

震えながら私は、

「ねぇおばさん・・・、さっきの話、嘘だよね・・・?」

叔母は振り向きもせず、ただ「おやすみ」とだけ発してドアを閉めてしまいました。

叔母の気配は玄関へと近づき、なにやらお経のような声がきこえてきました。

取り残された私と兄は、手を耳にあてて聞こえないようにして、ブルブル震えながら眠ったのでした。

今でも時々雨の日の夜は、思い出してしまうことがあります。

これが私が体験した、もっとも古い記憶の中の恐怖体験です。

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