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おちょこちょいな幽霊

これは私ではなく、友人が体験した怖い、というよりも笑ってしまう話。

50を過ぎて独り者の彼女は、ある日今どき流行りの断捨離を決意。
住むところも今までの3DKからワンルームへのダウンサイジングを実現。
身軽になったし、生活も極めてシンプルになって、しごともかえってしやすくなったと喜んでいた。
引っ越したところは狭いながらも、駅からの立地もよく、運転免許を持たない彼女でも行動範囲は逆に広がったくらいと、いいことづくめのようであった。

それが、である。
引っ越しして1ヵ月もたたないうちに、妙なことが起き始めた。
家に帰ると、極端に減らしたはずの荷物が崩れていたり、ユニットバスのカーテンが開いていたり、気持ちの悪いことが立て続けに起こり始めたのである。

普通、中年とはいえ女性ならビビるところだが、何せ大酒のみの男勝りの彼女、犯人を捕まえてやろうと決意したそうな。

そしてある晩、出かけるふりをして実際は狭いワンルームのユニットバスに隠れたそうな。これ夜遅くのこと。
すると夜中、あっさりと犯人の正体が割れた。
ひょっとしてこんなおばはんにもストーカーがいるのか、と少々ビビってはいたが、実際は違った。

小さなキッチンの壁にぶつかり、なべなどが落ちる音がしたためじっと目を凝らしていると、出てきた年のころは20を過ぎたくらいの若い娘。
いきなり「いたーい」と座り込んでいる。

見た目はどうみても生きた人間に見えたらしい。
気の強い彼女は早速怒鳴りつけた。
「こりゃあ、何をやっとるんじゃあ」と。

そしたら焦った若い女、ごめんなさいごめんなさい、と真っ青になって飛び上がった、なんと天井に上半身をめり込ませてじたばたしている。
頭の中をクエッションマークが飛び交ったのは彼女である。

「こいつ人間じゃない」
…と思ったところで普通なら怖いが、思わず噴き出したという。

天井にめり込んだまま、痛い、動けない…とじたばたしている。
「良いから降りてこい」
というと、ごめんなさいごめんなさいと言いながら床に落下。
腰を打ったらしくうめいている。

「お前何者だ、幽霊ならそんなあほなことせんだろうが」
というと、実は新米なんです。
どうも立体感が分からなくて。
そこら中にぶつかっちゃって…体中痛いんです。と半泣き。

「それに第一、なんでここにいるんだ」
と聞くと爆笑物の答えが。
「実は生前から、ひどい方向音痴で、自分の思ったところと違う場所に行っちゃうんですぅ」と泣き始めた。

どうやらこのマンションの一部屋に住んでいる別れた恋人に会いたいようだが、しょっちゅう目的の階が分からなくなるわ、たまには入れる部屋があるんではいってみると「あ、違うー」と逃げ出そうとすると、そこは未熟な幽霊だけにものにぶつかるわ、出口が分からなくなるわで、オロオロしていたという。

あまりのことに笑いこけた彼女、じゃあ行きたい場所に連れてってやる、と無理やりおびえている幽霊を部屋から連れ出したそうな。
出たい場所を聞いたら、なんとそれは隣のマンションだった。

「お前、幽霊なんだからどこからでも出入りできるだろうが」というと、
「いや、まだ力がなくて、ちょっとでも守られているものがあると入れなくて・・・そこで迷っちゃうんです。」と何とも心もとないこと。

とにかく隣のマンションまで連れていき
「ほら玄関は通り抜けたんだから、あとは考えろ」
と放置プレイしてきたそうな。

後日、近所のうわさではそのマンション、女の幽霊を見たと騒ぐ住人が続出したというから、ドジ娘、まだ迷っているのか、とあきれ果てた次第だという。

「ありゃ生前、よっぽどドジだったんだろうな」

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