取り憑かれた先にあるもの

 これは、私自身が実際に体験した不思議な話です。
 私には妹同様、幽霊は見えないけれど「何か」を感じる感覚があり、気が付いた時には浮遊霊に憑依されたり神社へ足を運ぶと「あ、ここ寒いな……いるわ」という感覚に見舞われる事が多々あります。
 その中でも体験したというのが去年の夏のお盆、父が勤務する某有名な賃貸会社主催のツアーで家族全員で東京に観光しに行ったんです。

 初日は有名なホテルでバイキングの昼食を食べて、スカイツリーやすみだ水族館といった場所を回って、それはそれは楽しい1日で終わる筈が……。
 時刻は深夜3時過ぎ。私自身も旅行で疲れていた筈なのに、なかなか寝付けない。
 この時私は弟と妹の間に挟まれ、ベッドで眼を開けていた。
(なかなか眠れないなぁ……。トイレ行こう)
 何度もトイレの電気を付けて、「今度こそ寝るぞ」と、電気を消してもう一度寝ようとした時です。
 ……スッ……っと、ほっそりと髪の長い黒い影が玄関に向かって横切っていきました。
「……え?」
 私は両隣に寝る妹と弟に目をやりますが、弟の体格はがっちりしていたので、どう見ても違います。
 妹は髪は長いけど、セミショート。私の髪はショートだし、違う……。じゃあ、今の影は誰なんだ……!?
 私はベッドのブランケットを全身に被り直し、ガタガタと震えました。

 十分ほど経った頃、再びブランケットから這い出しました。
 良かった、何もない……と安心したのも束の間。突如、何者かがベッドに乗ってくる感覚が私を襲いました。堪らず私は大声で叫んでしまいました。
「うわああああああ!!」
 何事かと、弟と妹が起きてきます。
 震え上がる私の異常さに気付いた弟と妹は「……幽霊でも見たの?」と返してきました。……私は、黙ってただ頷くだけでした。

 日付が変わって次の日の朝。この日は鶴岡八幡宮を見に、バスで移動することになっていました。
 昨晩の事もあり、私はバスの座席で仮眠をする事になりました。
 私の隣の座席には妹が座り、着いたら起こして貰おう。そう思いながら、私は眠り始めました。
 由比ヶ浜の海岸を過ぎた辺り私は「そろそろ起きなきゃ…」と、うっすら眼を覚ましました。

 しかし、意識はあるのですが、体が動きません。
 ……金縛りだ。
 そう思って両手を見ると、片手で抱いていた筈のぬいぐるみが避けられ、まるで赤ちゃんを抱えるような手つきに変わっていました。
「何で……?!」
 気味悪がっていると、バスは鶴岡八幡宮に到着しました。
 バスから降りた途端、私は泣きたいわけでもなく急に瞳から涙が溢れてきたのです。
 すると歴史好きの妹が、こんなことを教えてくれました。
「静御前には源義経との間に身籠った子供がいたけど、頼朝が由比ヶ浜に投げて殺してしまったんだって」と。
……私は静様の事を考えながら、必死にお祈りをしました。

 後から妹に聞いた話。
私がバスの中で眠っている間妹はさりげなく座席の窓ガラスを見たら、私じゃない別の髪の長い女性が赤ちゃんを抱いている姿が見えたらしいです。

朗読: りっきぃの夜話
朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる