幻の事故

これは少々霊感らしきものがある、私の姪っ子が体験した話。

姪っ子といってももう30過ぎでシングル、女の子に似合わず車道楽で、
当時はアルファロメオか何かに乗っていた記憶がある。
男の子みたいな外見と性格をしているが、そこはやっぱり女の子、
甘いものと動物に目がない。
それでちょうどブルーベリーが収穫期を迎えたこともあり、
はるばる東京から自慢の愛車を駆ってきた。

高速はいつも以上に順調で、快調に飛ばしてきたらしいが、
一般道というか山道に入ったらやっぱりなれないところは怖い。
しかもほとんど車が走っていない。
気が付くと前にその筋の人が乗るような高級乗用車が一台は知っているだけ。
にも拘わらず、普通に走行していて後ろから
「どすーん」という激しい衝突音、
エアバッグも開いているし、いつの間に後続車が出てきたのか不思議だった。
しかも自分の車は確かに前の高級車に当たっている。
衝撃もあった。

たまたま我が家から1時間もかからないところにいたため、
すぐに私に電話、怖い人と事故ったと強気の彼女もさすがにあせっていた。
ここからがさっぱりわからない。
前から降りてきたのは、いかにも農家のおじさん風の男。
「今、確かに玉突きしたよな」
「はい。私も当てられたはずみで…」
というと、おじさん怪訝そうに首を振っている。
「跡がないんだよ」
…確かにおじさんの車にもじぶんの車にも衝突痕が全くない。
二台ともエアバッグが開くほどの衝撃がありながら、だ。
そこではっとして自分の車の後部に回ってみたが、まったく傷一つない。
おじさんと二人、あっけにとられているところに、
一応事故だからと私が呼んだ警察とともに呼んだ交通課の巡査も到着。
彼らも現状を見てポカーンとしている。
そりゃそうだ、高級車同士の事故だ。
という通報で来てみたら、まったくお互いの車に接触痕がない。
しかしエアバッグは作動しているという可笑しな状況。
第一姪っ子の車に追突したはずの第一当事者の影の形もない。
警察もこれじゃ事故処理できない、と首をかしげながら帰っていった。

そうこうしているうち、日も暮れてきた中、一台のカブが通りかかった。
見れば隣町のお寺の和尚だ。
何かあったのか、と聞かれて農家のおっさんが今までのことを話すと、
和尚は苦笑い。
「この辺は脳、タヌキの事故が多いんじゃ。
おおかたお前さんたちを化かしたのも、その一匹だろう。
まあ大事に至らんでよかったが。
まあその気があれば、そこらへんに饅頭でも備え立ってくれ」とのこと。

朗読: 朗読やちか

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