名医

これは私が古本屋をやっていた時の話。

時々、即売会といって、神社の境内などで行われる古本市に
私も新参ながら参加させてもらっていた。
本来、天皇制を芯即嫌っている私だが、背に腹は代えられず、参加してみた。
するとやはりである、いるはいるは。
この世のものでない連中がうろうろしている。
一番はっきりするのは、普通の人間に見えて影の全く見えない人間。
霊だけがどうやらうろうろしているらしい。

後、不思議だったのは霊感ゼロのリアリストを辞任する店主の店が
やたら繁盛しているように見えるが、
話をしたらなんと売り上げは皆無だという。
最初に有志がお払いに行くのだが、当然リアリストの彼は参加していなかった。
そこで仕方ないから、本殿に参拝を進めたら半信半疑ながら出かけて行った。
するとどうだろう。
妙に込み合っていた店が静かになったと思いきや、
きっちりと上客は残るようになった。
客に聞いたら「何かしら、最初のうちはこの出店、入りにくかったわ」という。
どうやら何かてのを張った場所が、霊道の真上に位置していたらしい。
急遽レイアウト門変更し、レジを置いてた場所と書棚を狭い中、
えっちらおっちら移動したところ、本人も体も楽になったし、
客入りも上々とご機嫌になっていた。

結構こういうこともあるもので、私が出会った不思議な例の話を一つ。
風采のあがらない老人が、安い均一本を一生懸命にあさっている。
ああ冷やかしか、と放っていたらその爺さん、私のほうにやってくる。
「お前さん、見えるんだろう、教えてやれよ」と妙なことを言って、
すーっと森の中に消えていった。
何のことかさっぱりわからずいると、
隣のテントを切り回しているこのイベントの責任者の奥さんの姿見えた。
すると妙にはっきりわかるのだ。
旦那のほうに、「奥さん循環器と腰が悪くないか」と尋ねたら
顔色が真っ青になった。
聞けば循環器は手術をしているし、腰痛で長年悩まされているという。
ああ、見えるなら教えてやれとはこのことか、と思っていたら、
この会話を聞きつけてよその店舗の主人たちも暇つぶしにフラフラやってくる。
他県のイベントだし、あんまり普段も付き合いがない連中だが、見えてしまう。
酒好きで胃腸をやられている奴、腰とひざを痛めている奴、
危険なまでの高血圧で慢性の頭痛に悩んでいる奴、と全部わかってしまうのだ。

この不思議な状況は、イベントが終わった打ち上げの席までずっと続いた。
でもあんまり気分のいいものではない、
人の体の悪いところばっかり見えても私じゃ治せない。
とにかく各自には五十木病院に行くように勧めたが、
何人かは結構症状がひどくなっていったり、
自覚症状はないにも関わらず、面倒くさい病気にり患してり…。
あとであまりからは喜ばれたが、一面で気持ち悪がられた。

実際、どう見えるかというと、その人間の病んだところが妙に真っ黒に見える。
なんとなく両手をかざしてみると、妙に冷たくなっていたりというわけ。
おかげ様、というべきかこの特殊能力もイベントが終わって
店舗に戻ってからは少し落ち着いたが、今でも見えてしまうときがある。
いったいあの爺さんは何者で、私に何をさせたかったのか、
さっぱりわからないのである。

朗読: 朗読やちか

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