晩秋のホッコリ風景

友人とふらり田舎町に散策に出かけたときの話。
稲も刈り取った後の広大な田んぼが続く中に、
昔ながらの大きな日本家屋が点在する場所に出た。
風は心地よいし、日差しのぬくもりもまだ残っている時間帯。
カメラ片手に友人たちはそれぞれ好きな風景を写真に撮っている。
まあ初老のおじさん叔母さんのグループだけに実にのんびりしたものだ。
ただそんな田舎でも喫茶店があるのがいいところ.
それぞれコーヒーを飲みながら、のんびりと周りの景色を見渡していた。

すると少し遠くだが、一軒の大きな農家の玄関先というか、
駐車場みたいなスペースが見えた。
そこには真っ白い巨大な老犬が気持ちよさそうに眠っている。
「あの怖えなあ、ほんまに幸せそうに眠ってるわ」
というと、みんながのぞき込む。
すると私に劣らぬ犬好きの友人の奥さんが
「よっぽどきもちいいんやねぇ。もういい年やろうけど、
本当に安心しきって寝てるわ」とはしゃいだ声を出す。
ところがである、残りの数人は全く犬など見えないという。
またお前ら、いてもせんものをみとるんと違うか」と冷やかされ、
じゃあ帰り道によってみるか、という話になった。

すると喫茶店の老マスターがゆったりとした笑みを見せて
「本当にお客さんは犬好きなんやね。言ってみたらわかるわ」
と声をかけてきた。
早速あちらに足を向ける私たち。
「やっぱり折るやん、ほんまのんびりしてるわ」
ほんま「隠居した秋田犬かな」と二人でしゃべっていると、
ほかの連中はポカーン。
そうしたらそこへ、母猫に引率された子猫が4-5匹、
とことことやってきたと思ったら、
一直線に寝ている老犬のほうに向かっていった。
私たちの目には、子猫たちが老犬のおなかに潜って眠りだしたように見えていた。
母猫も、何の心配もないという顔でにゃおんと一言挨拶すると、
どこかへ出かけて行ってしまった。
「どうやら見えてるのは、お前らと猫だけやで」
「よほど生前は、優しい子やったんやろ」
と妙に一同、ホッコリした気分で家路についた次第。
何とも平和、心底気持ちよさそうな犬の寝顔がまだ目に浮かぶ。

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