私が高校の頃、通学で利用していたあるバスの話です。
高校へのバスには2つの路線あり、1つは、二、三十分程の一番早い路線、もう1つは、一番早い路線の途中で分岐し、山道を回っていく路線でした。
時間はかかりますが、山道の路線は季節によって木々の色が変わりとても景色が綺麗でした。
その為、帰り道は一番早い路線ではなく、その山道の路線をよく利用していました。
そんな夏のある日、部活が長引き、疲労が溜まっていた為、一刻も早く家に帰りたかったが、先に来たのは山道を行くバスでした。
バスの本数が少ないので文句は言えません。
時刻は既に八時を回り、乗客は私ただ一人。バスはいつも通り山道へと進んでゆく。
しばらくするとバス停が見えてきました。
するとそこには子供を二人連れた四人家族が立っていました。
「なんだろう……虫捕りにでも来たのかな……」
そう思っていると、なんとバスはその家族を無視して通り過ぎてしまいました。
次のバスはだいぶ後で、私はその家族のことを気にかけ、運転手に 「あの〜すいません。今、バス停にお客さん居ましたよ」と伝えました。
すると 「お客さん終点まで? 着いたら説明しますから」 と言われました。
それがどういう意味か分からずにいると次のバス停が見えてきました。
いた……。それはさっきの家族でした。
外灯のお陰で、それが生きた人でないことはすぐに理解できました。
ボサボサの髪、血塗れた服、青白い肌。 次も、その次も、バス停でそれは待っていました。
私は恐怖でずっとカバンをかかえていた。 気付くとバスは終点に到着していました。
運転手の話によると、昔、あの山道付近で一家心中があったそうで、それ以来この時期になると度々目撃されるようになったそうです。
運転手は笑いながら 「乗せたらバスで連れてくどころか、あの家族に連れてかれてしまうよ」と言っていました。
私も恐怖を紛らわす為に笑っていました。
回送となったそのバスの後ろに、あの家族が座っているのを見るまでは。
それ以降、あの山道を通るバスは使っていません。
あの運転手さん元気かな。