136 views

わざわざ遠くの整骨院に通う理由

腰痛持ちの道子さんは、毎週とある整骨院に通っている。
それも自宅から70キロも離れた病院まで、わざわざ高速道路を利用して行っているのだ。

「そんな遠くの病院じゃなくても、もっと近くに良い先生はいるよ」
と言ってみたが、 「だめだめ!」と、道子さんは首を横に振る。

「私は、あの整骨院の、上田先生じゃないと駄目なの!」
道子さん曰く、上田先生は宇宙人だと。

「何処の病院に行っても、全然治らなくて、とうとう立てなくなるまで悪化した私の腰痛を、上田先生が1回の施術で歩けるようにしてくれたのよ!」

どうも普通の治療とは全く異なるため、健康保険などは使えず、治療は実費。
その為、当然高額となるのだが、それにも関わらず、上田先生の腕は口コミで広がり、今では有名なアスリートも通うほどの、知る人ぞ知る名医なのだそうだ。

「簡単に言うとね、大地のエネルギーを、膣と肛門の間から注入して、全身を貫いて、頭の天辺からドーンと、放出する感じなのよ」

イマイチ理解に苦しむが、なるほど普通の治療とは、大分趣きが違うようだ。
そして道子さんは、上田先生が宇宙人だと思うようになった切っ掛けを話してくれた。

それは2011年3月だった。 天気は晴天。
気持ち良く車をかっ飛ばし、もう間もなく整骨院に着こうかというその時、交差点の信号が赤になり、道子さんは停車した。

その時である。
前方上空に、銀色に光る巨大な物体を発見したのだ。
片側2車線の国道は、真っ直ぐ前方に伸び、交差点の前方右には大型家電量販店、前方左には7階建ての商業ビルが建っているのだが、その銀色の物体は、左右の建物の頭上を跨いでも尚、余りあるほどの大きさで、正にポッカリと浮んでいるといった感じだった。

道子さんは、はじめそれを、スーパーマーケットやパチンコ店の宣伝用バルーンだと思った。
晴天の日光を受け、キラキラと輝く金属質なそれは、人の目を引き、美しいとさえ思わせる物だった。

ただ、それにしては巨大過ぎる。

それに普通、宣伝用のバルーンなら、丸い風船の様な形をしており、そこから細長い短冊の様な物を垂らして、店舗名や宣伝用のコピーが書かれている筈だ。
だがそれは、横広がりの楕円形で、丁度、葉巻の様な形をしており、店舗名やコピーの書かれた短冊の様な物も見えない。

ただ銀色に輝いて、ビルの真上上空に停止しているのだ。
ヘリコプターで言うと、ホバリング状態とでも言えば分かりやすいだろうか。

道子さんは停車した車の中から、暫くそれをポカーンと眺めていたが、やがて信号は青に変わる。そのまま車を停めているわけにはいかない。

「駐車場に着いてから、ちゃんと見よう」

道子さんは駐車場に向かうべく、車を動かし、交差点を左折しようとした。
しかし横断歩道を渡る人々がいる為、車は再度一時停止する。
目の前を数人の歩行者が通り過ぎた。
殆どの人が、上空の巨大な銀色の物体に気付く素振りも見せず、横断歩道を淡々と渡っていく中、グレーの作業着姿の20代位と思しき青年だけが1人、先程の道子さんと同じ様に、ポカーンと上空を見ながら歩いていた。

歩行者が全て渡り終えたのを確認すると、道子さんは車を移動させて駐車場に停めた。そして急いで車を降り、巨大な銀色の物体をじっくりと見るべく、上空を振り仰いだ、のだが……。

そこには、もう、銀色の物体は跡形も無く、ただ爽やかな青空が広がっているだけだったのだ。

もしかしたら、何処かに移動したのかもしれない。
そう思った道子さんは、右に左に後ろに前に、首と体を捻って、必死に銀色の物体を探した。ジェット機じゃあるまいし、そんなに急に移動出来る様な物には見えなかったからだ。

ところがそれは、まるで煙のように全く音も立てず、姿を消してしまっていた。
不思議に思った道子さんだったが、無い物は仕方がないし、どうしようもない。

しかも上を向いて、あっちを見たりこっちを見たりしたせいで、首の筋を痛めたような気もする。気が付けば、整骨院の予約時間でもある。
道子さんは首筋を気にしながら、整骨院へと向かったのだった。

「首、どうしたの?」
道子さんが診察室へ入ると、上田先生が開口一番に聞いてきた。
上田先生の受診は、いつもこんな感じで始まる。
何も言わなくても、その日の体調を言い当てられるのだ。

道子さんは先程目撃した、空に浮かぶ銀色の巨大な物体の話をした。
「私も昨日の夜、見たよ。UFO……」
道子さんの話しを聞いて、上田先生が言った。
「UFO?」
上田先生の思い掛けない発言に、道子さんは驚いた。

「昨日の夜、11時頃だったかなぁ、何となく外が気になって、風呂場の窓を開けたら、来たんだよ、UFO……」
「来た?」
「そう、寄ってきた。UFO7匹」
上田先生は、まるで光に集まる虫の話しでもしているかのように言う。

「なんだろうね、アレは……。なんか用事が有って来たように感じたんだが、なんせ言葉が通じないからねぇ」
首を傾げ、思案顔の上田先生だったが、その時は、何も思い至ることはできなかった。

それから数日後の3月11日。
東日本を大きな地震が襲った。
1,000年に1度とまで言われるその地震は、大きな津波を巻き起こし、東北地方を中心に甚大な被害を与えた事は、深い傷となって、私達の記憶にも焼き着いている。

「今思うと、あの時のUFOは、それを知らせに来たんだろうって、上田先生が言ってたの」
道子さんは言った。
「でもさ、それだと、UFOは道子さんにも知らせに来たってことにも、なるんじゃないの?」
「そうなのよぉ。上田先生の施術を受けてれば、そのうち宇宙と交信出来るようになるんじゃないかと、思ってるの!私」

整骨院に通う道子さんの目的は、腰痛治療だけではないらしい。  

おわり

 COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

幽霊ヨット

台風の夜

怪談録 のっとり

続 M市デパートP

ヘアピン

光るもの