屋根裏部屋の女

これは、高校時代の友人の竹田君(仮名)が話をしてくれたものです。

高校3年生の卒業式を控えた時期でした。
友人の竹田君(仮名)は剣道部の主将、真面目な性格でたまにひょうきんなことも言うようなキャラのクラスメイトでした。
私と竹田君の学校は私立で、単位が足りていて進学先が決まっている生徒は
自由登校で数ヶ月学校に来なくてもいいという、丁度そんな時期に竹田君が話をしてくれたんです。

竹田君は休みを利用して、運転免許を取得するために教習所に通い始めます。
都内だと教習所も混んでいることもあって、
茨城県に住んでいる祖母の家から、近くの教習所に通うことにしました。
祖母の家には叔母とその娘である小学2年生のかよちゃんという女の子が住んでいて、竹田君は屋根裏部屋をしばらく貸してもらうことにしたのです。
屋根裏部屋は竹田君が来る前に祖母達が掃除をしてくれていたんでしょう、
すごく綺麗にされていて、だけどちょっと埃っぽい匂いがする部屋だったそうです。
教習所に通い、終わったら自転車で祖母の家に帰って
祖母、叔母、かよちゃんと4人でご飯を食べてお風呂に入って寝る。
自然溢れる田舎ということもあって、都会では感じることのない充実感を感じていました。

初日の晩、就寝した竹田くんは金縛りにあってしまいます。
竹田君にとって金縛りは人生初めての体験で「これがあの金縛りか!」と何故か少し嬉しくなったそうです。
すると、足元に誰かが立っているのに気が付きます。
白い服を着た長い髪の女がそこには立っていました。
竹田君はちょっと怖くなったけど「いやいや!ベタな幽霊だな!」と心の中でツッコミを入れたそうです。
その女はジーッとこちらを見つめているだけで特に何かされるわけでもなかったようです。

それから毎晩、竹田君は金縛りにあって白い服を着た長い髪の女が現れるようになります。
それに、日を追うごとにその女は自分に近づいて来るようになりました。
教習所のスケジュールが終盤に差し掛かる頃には女が自分の周りをゆっくりとぐるぐる回ったり、
自分の顔を覗き込んでくるぐらいまで近くなってきました。
流石におかしいと思った竹田君は祖母と叔母に毎晩金縛りにあうことを相談します。
相談したのですが家で霊現象は起こったりしないそうで、
それでも心配してくれた祖母と叔母は怖かったら部屋を変えようか?と提案してくれました。
竹田君は 「いや、あと数日で教習所のスケジュールも終わるから屋根裏部屋のままで大丈夫だよ」 と断ったそうです。
竹田君はその時なんでちょっと強がって断ったのか自分でもよくわからないと言っていました。
叔母の娘のかよちゃんにも金縛りの話をしたのですが、
かよちゃんは怖がってしまって泣かせてしまいました。
ちょっと怒られたそうです。
その後も変わらず毎晩、金縛りと女が立っています。
しかし、竹田君も慣れてきてしまって特に気にならなくなってきたそうです。
鋼のメンタルです(笑)

そして最終日、竹田君は「最後になにかあるに違いない」とちょっと怖かったそうです。
「怖いなぁ、襲われたりしたらどうしよう」と考えだす竹田くん。
「そうだ!寝ないで起きてればいいんだ!」 と屋根裏部屋ではなくリビングでTVでも観て過ごすことにしました。
「ん…?」
気が付くとリビングでTVを観ていたはずなのに屋根裏部屋で寝ていたのです。
また金縛りにあっています。
竹田君は少し動揺したのですが、落ち着きを取り戻します。
落ち着きを取り戻してあたりを見渡すとやっぱり女が立っています。
充分怖い状況だと思うのですが、竹田くんは襲われたりしなかったのでホッとさえしたそうです。
またもや鋼のメンタルです(笑)

「…ってことがあったんだよ」
そうやって竹田君は僕を含めたクラスメイト数人に話をしてくれました。
友人みんな揃って「うわあ怖え」と盛り上がっていました。
そこで竹田君がまた話を続けます。
「でもそれで終わりじゃないんだ」
最終日、リビングでTVを観ていたはずがいつのまにか屋根裏部屋で金縛りにあった竹田君。
そして、女 しかし最終日の女はいつもと様子が違います。
ギギギギ…というような古いドアが開くような音と金属と金属が擦れ合うような高い音がうめき声のように聞こえます。
それが竹田くんは震えが止まらなくなるくらい怖かったそうです。
鋼のメンタルの竹田君が震えるくらい怖い?

僕は
「うめき声がそんなに不気味だったの?だから震えるくらい怖かった?」
竹田君に聞きました。
竹田君は「いや、そうじゃない」と首を横に降ります。
「かよちゃんだったんだ…」
一同「えっ!?」
「その日は白い服の長い髪の女じゃなくて、かよちゃんだったんだ」
最終日、金縛り中に現れたのはいつもの白い服の長い髪の女ではなく、
小学2年生のかよちゃんが立っていました。
かよちゃんがギギギギ…キーといううめき声をあげながら
無表情でずっと竹田君を見つめていました。
やがてうめき声の他にも別の音が聞こえます。
カチカチ…カチカチ…
なんだこの音は?
カチカチ…
竹田君は音の正体に気が付きます。
かよちゃんの手にはカッターが握られていました。
カチカチという音はカッターの刃を出す音でした。
かよちゃんがカッターの刃を竹田くんの眉間に近づけてきたところで、竹田くんは気を失ってしまったそうです。

そんな話を竹田君から聞き、僕を含めクラスメイト一同が恐怖で震えたのを今でも憶えています。

そして数日後の卒業式の予行練習の登校日、
滅多に休まない竹田君がその日は来ませんでした。
そして卒業式当日、学校に来た竹田くんに
「なんで休んだの?」
僕は聞きました。
竹田君「葬式だった。おばあちゃんが死んだ。
俺がいなくなった後に屋根裏部屋を整理してる時に死んだみたいだ」
死因は不明。
それを聞いた時、僕は背筋が凍りました。

その時、ギギギギギギ、キー、カチカチという不気味な音が僕の脳内にも流れてきました。

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