ずれている

先日 夜道を歩いていた時の話。
その時は三次会終わりで、べろんべろんになって人気のない田舎の一本道を歩いていた。

冷たい雨が肩を濡らし、凍えるように寒かったが、
それ以上に吐き続けたせいでいがいがし始めた喉の方が辛かった。
潰れそうになりながらふと前を見ると、
背広を着た男性が、こちらに向いて歩いてきていた。
男の姿に何か違和感を覚えたが、疑問よりも早く家に帰りたいという欲望の方が勝り、俺は千鳥足でふらふらと歩き続けた。
再び歩き出してから数十秒、俺はとうとうその男とすれ違った。
男は何食わぬ顔で俺の横を通り抜けていったが、
俺は流石に強まる違和感に耐えきれず、その場で立ち止まった。

男の肩が俺の横を通り過ぎてから数秒後、カツカツと靴がアスファルトを叩く音が、前方から聞こえたのである。
靴音が消えた頃、俺はちらりと振り返り、
そこでやった違和感の正体に気付いた。
過ぎ去る男の下半身が、上半身より大きく見えるのだ。
思えば通り過ぎる前は、上半身の方が大きく見えていた。
遠近法で考えれば、下半身が上半身の後ろを動いていることになるのだ。
足音の件も説明がつく。
脳で理屈を理解していても、俺の心はそれを認めなかった。
「酔ってるんだ 気のせいだ。」
と自分を騙しながら、二度と振り返らずに家へ急いだ。

その後、特に何も起きていないし、
あの道で死人が出たという噂も聞かない。
あの、上半身と下半身がずれていた男は、一体なんだったのだろう…

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