作業着の男

これは友人が話してくれた体験を、私が投稿用にまとめたものです。
以下、友人目線で話を書きます。

私は高校を卒業してすぐに、地方の食品会社に工場スタッフとして就職しました。 この話は毎日の慣れない忙しさにもようやく馴染んできた頃の出来事です。

ある日、いつものように仕事をこなし荷物を運んでいると、[工場用の白い作業靴を履いた足元]が視界に入りました。
狭い通路だったので「すみません」と声を掛け、相手を確認しようと顔を上げました。

しかし、そこには誰もいません。
見間違いだと思い、その時はあまり深く考えなかったのですが、それが始まりだったかのように思います。

以降、私は頻繁に”それ”と遭遇する事になったのです。
部署内の掃き掃除を行っていると、隣に作業着姿の人が立つ気配がしたので、誰か何か用かな?と思い顔を上げるもそこには自分しかいない。

食品保管倉庫の磨りガラスの向こう側に、誰かが動いていたのを確かに見ているのに、扉を開けると誰もいない。

手元に集中して作業を行っていると、すぐ隣で作業着の誰か(の手元)が一緒に作業を始めたので 確認しようとするも…やはり、そこには誰もいないのです。

“それ”はいつも工場内で着用されている作業着姿で、私が姿を確認しようとすると消えてしまいます。
気味が悪かったけれど実害もなく、職場以外で”それ”を見ることもなかった為、あまり気にしない事にしていました。

その矢先に、事は起こりました。

7月の終わりのとても暑い日でした。
私は仕事中、利き手をローラー型の機械に巻き込まれるという事故にあってしまいました。 機械に挟まれた私の手は中々抜けず、悲鳴を聞き付けて同僚の何人かが駆け付けてくれました。
痛みでパニックになりながらも、ふと、その中に見覚えの無い人物が交じっている事に気が付いたのです。
その人は50代位でしょうか。初老の男性でした。
顔には全く生気が感じられず、ただ真顔でじっと、痛みに倒れこむ私を見下ろしています。

[あぁ、いつも私の所に現れていたのはこの人だ・・・!]

それどころではないはずなのに、何故か冷静にそう確信しました。
その瞬間私は意識を手放し、次に気が付くと病院のベットの上でした。
私は全治3ヶ月という大怪我を負ってしまいました。
そしてそれ以来、ぱったりと”それ”を見ることはなくなったのです。

ですが、このお話には続きがあります。
治療とリハビリを終えて会社に復帰した私は、新しい部署に異動になりました。

ある日、異動先で仲良くなった先輩から相談を持ち掛けられました。
それは『幽霊を見てしまったかもしれない』というものでした。

現場主任だった先輩が消灯の終わった部署内を点検して回っていると、暗い部屋の奥に項垂れた作業着の男性がいるのに気が付きました。
担当部署の従業員は全て帰した筈なのに誰だろう?と思いながらも声を掛けようとした瞬間、 その男性は先輩の目の前でスッと消えてしまったそうです。

もしかしたらそれは私の所にも現れていた男性かもしれないと思いましたが、 怖がらせてしまいそうで先輩には黙っている事にしました。

その後、その話をしてくれた先輩は職場で原因不明の癲癇(てんかん)を突然起こし、休職を余儀なくされました。
偶然か必然か、先輩が倒れたのは例の作業着の男性を目撃したと教えてくれた場所でした。

先輩の休職中、職場は工場に出る幽霊の話題で持ち切りでした。

どうやら先輩は私以外にも作業着の男性の話をして回っていたようです。
そして次第に『自分も見た(又は見たかもしれない)』と言う人達が現れました。

“それ”を目撃した人達の殆どが、大なり小なり怪我や病気をする前にその作業着の男性を目撃していたそうで、 自分の体験と酷似した話しばかりでした。
作業着の男性は警告をしてくれていたのでしょうか?
それとも”それ”を見てしまったから起こってしまったのか…。

そんな話題もなりを潜め、先輩も無事復帰を果たした翌年、私の部署にも新卒の後輩が入社して来ました。
当初明るく元気の良かった後輩は日に日に何か思い悩む様になり、ついに先日ぽつりと『最近頻繁に変な物を見る』と言い始めました。
後輩に何事も起こりませんようにと、強く願う毎日です。

以上が友人の話です。
友人が怪我を負ったとき、実際に私も病院へお見舞いに行っており、この話を聞いたとき心底ゾッとしました。

また、余談ですがこの話を取材した際、彼女は「三週間前くらいから左肩だけが異様に痛い」と 言っていたのですがこの話を書き終えた途端に肩が軽くなったそうで… 重くなるならまだわかるのですが、軽くなるとは?と不思議に思いました。 彼女が健康であることに越したことはありませんが…。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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