彷徨う理由(わけ)

ありきたりの噂話だが、私の家の近くの寺では、度々幽霊が目撃されていた。
それが我が家の墓の前辺りにいたと言うので、私達家族の耳にも入ってきた。
だが、私達家族には思い当たる節があり、
皆、 「やっぱりな。」 と思ったのだった。

広い通りから住宅地に入ると200m程で丁字路にぶつかる。
そこが寺の墓場なので、夜には、車のヘッドライトに大きなケヤキの木と
沢山の墓石が映し出され、嫌でも目に入ってくる。
寺には灯りがなく、奥の方は真っ暗で、
道路側の限られた部分が車のライトで照らされると、古びた写真のように、
そこだけ時間が止まってしまったかのように見えた。
この地域の人は、ここから左右に曲がってそれぞれの家に帰って行く。
そんな時に、 「薄い人影が見えた。」 とか、
更には、 「〇〇さん(我が家)の家の墓の前辺りにいた。」 という幽霊の目撃談が出ていた。
私の父は次男で、そのために祖父母から、
「早く墓を買え。」 と言われ、父はまだ若い頃に墓を購入した。
家族の誰かが亡くなったわけではないので、
墓にはただコンクリートの蓋が置かれているだけで、墓石は無かった。
ただ、本家の墓の近くに確保できたので、皆安心していた。

ある日、祖母が本家の墓の掃除に行った時、
我が家の墓の上に墓石が置いてあった為、慌てて家にやって来た。
玄関先で私の母に、 「墓石を買ったのか。」 と尋ねた。
母が、 「買ってません。」 と答えると、慌てて引き返して行った。
祖母の訴えにより、お墓のダブルブッキングが判明した。
「そんな、まさか!」
とても驚いたが、すぐに私の父が先に購入していた事が確認され、
寺側で対処することになった。
相手の方のお骨を別の場所に移すとの事。

私の住む地域では、人が亡くなると火葬して納骨するが、
骨は墓の中の土の上にばら撒いて納骨する。
袋や骨つぼに入れず、直接ばら撒くのである。
それを思い出した時、気持ちが悪くなった。
あの狭い限られた空間に全くの他人の骨がばら撒かれ、
そのご家族が少しの期間だがお参りしていたとすれば、
そこに魂が残ってもおかしくないのではないか。
父が、 「俺が死んだら、ちゃんと説明して、
移された墓の場所に案内してやるよ。」 と言っていた。

そして、父が亡くなって墓の中に納骨し、その事をふと思い出した。
父は、あの人の移された墓の場所を知っていただろうか?
案内出来ないで、二人で彷徨っていたらどうしようか…。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-
朗読: 怪談朗読と午前二時

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