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【人の体の部分で、どこが一番怖いですか?】

「人の体の部分で、どこが一番怖い?」
会社の同僚のAが突然そんな話を切り出した。

社員旅行のその日の晩。
同室になった仲間4人で酒を飲みながらワイワイやってるうちに、
「修学旅行みたいで社員旅行もいいじゃないか」と自分が話を振ったあたりから、
修学旅行の定番である女子の話題や怪談めいた話になり、
その流れから出たAの言葉だ。
「怖い部分??目とか?にらまれると怖いし」
「視線とか感じると怖いな」
「骨も怖いよ、傷口から骨が飛び出してたら卒倒するわ」
そんな盛り上がりに欠ける話をしていると、
Aは「オレは頭頂部が怖い」と言い出した。
一瞬笑いが起きる。
「確かに総務のYさんの頭頂部みたいにツルピカになるのは怖いな」
なんて言ってBが笑う。
Aはニヤリと薄ら笑いを浮かべながら話を続ける。
「いや、それも怖いけど、なんて言うか・・・
ありえない所に頭頂部があったら怖くない?」
みんな一瞬「???」(ハテナ顔)になる。
「例えば、電車と駅のホームの隙間に人間の頭頂部があったら怖くない?」
「うう~ん、それは怖いな」
「なんでそんなとこに頭が・・・・えっ?・・・」
そこからAは身の毛もよだつような、こんな話を語りだした。

会社帰りのある日の夜。
いつものように乗り換えの私鉄駅ホームに立つと、
ちょうど電車が滑り込んでくるところだった。
電車はこの駅では止まらないはずの特急列車で、
猛スピードでこの駅を通過するはずだった・・・が、鋭い急ブレーキ音。
ハっとして見ると、 見てはいけないものを見てしまった。
飛び込みだ。
しかもこんな凄惨なことがあるだろうか、
飛び込んだ人はただ単に電車に跳ね飛ばされるのではなく、
なんと車両とホームの隙間に挟まり、
そのまま猛スピードで止まれない列車にこすりつけられ、
まるで脱水中の洗濯機のように激しく体を回転させながら、血しぶきをまき散らし、
電車の先頭から最後尾の車両まで一瞬のうちに巻き込まれていったのだ。
急ブレーキで止まった電車、けたたましく鳴る警笛。
ホームでは線路側に立っていた多くの人が血しぶきを浴びており、
泣き叫ぶ女性や気絶する人、阿鼻叫喚の地獄絵図の様相となっていた。
電車のドアは開かず、中の乗客たちがなにごとかと窓に顔を寄せいた。
すべての窓ガラスにも血しぶきが飛び散っているので、
中の乗客にも何があったのかわかったのだろう。 全員顔面蒼白である。
車両最後部ではちょっとした人だかりができていた。

ちょうどそこにいたAはまたしても見てはいけないものを見てしまった。
電車とホームの間の隙間に、人間の頭が挟まっているのだ。
風呂上がりのように濡れた髪が振り乱されている。
もちろんシャワーでそうなったのではない。
自分の血によって赤黒く濡れているのだ。
そして信じられないことだが、
どう見ても即死のその死体に向けて数人がスマホを向けて写真を撮っていた。
最後尾にいた車掌が窓から青黒い顔を出して下を眺める。
ドアを開けられない。そこに死体の頭があるからだ。
「下がってください!下がって!下がれ!何をしている!」
車掌の怒鳴り声が響くとともに、 駅員たちがぞろぞろと走り寄って着て、
邪魔な野次馬たちを排除しはじめた。
強制的に死体から遠ざけられたものの、
駅のホームではまだ地獄絵図が続いていた。
駅員の数が圧倒的に足りない。 レスキューもまだこない。
ショックで倒れた人をベンチに寝かせるなどの応急処置を客同士がやっていた。

やがてレスキュー隊も到着し、線路下に降りる隊員や
具合の悪くなった人を担架で運ぶなど救助作業も始まった。
事故現場にはブルーシートがやっとかけられ、
ホームからは全員出るように言われたのだが、
別のホームからはその様子が丸見えであった。
Aは別のホームからしばらく野次馬を決め込んで様子をうかがっていた。
おそらく死体を回収するためだろう。
駅員やレスキュー総出で車両をホーム側から押して傾けさせていた。
「あんなことで死体を回収できるんだろうか」
見ていると車両が反動で揺れている。
「あれでは死体の頭をさらに押しつぶしているのではないだろうか・・・」
Aは先ほど見た映像を思い出しながら 嫌な想像を膨らませていた。

しばらくしてブルーシートが移動し始めた。
どうやら死体を回収できたらしい。
ホームに止まった電車が改めて全貌を表すと、
まるで赤いラインを引いたデザインの車両に見える。
もちろんそれはデザインではなく、血ノリなのだが。
駅員たちがバケツに水を汲み、雑巾でその車両を急いで拭き始めた。
あるものはホースで水をかけている。
なにかとても急いでいて、適当な清掃に見える。
やがて清掃が完了したのか電車に動力が戻り、ゆっくり出発していった。
「えっ?アレ走らせるのかよ」
周りにいた客たちからも不安げな声が出ていた。
特急列車は結局そのまま駅を離れていったが、血のりは全部取り切れていなかった。
先頭車両から最後尾まで、いかにも雑巾で拭きましたというような跡がうっすら残っているし、
車両と車両の間に付いている金属のバーのようなものには、
人が叩きつけられたように血しぶきがまだ残っていた。
また、窓枠からは水と一緒にまだ血がしたたり落ちているようだった。
「あれじゃあ、次の駅に着いたら着いたで、ホームが大騒ぎになるな・・・」
Aはそう思いながら、遅延した次の電車で帰宅の途に就いた。
駅のホームにはまだそこかしこに血しぶきが残っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
社員旅行二日目の朝。
朝食バイキングに集まる社員一同。
ただ、Aだけがげっそりと青い顔をして気分が悪そうだ。
昨晩、あんな話を自分からしておいて、
その時の記憶がフラッシュバックしたのか一日中眠れなかったそうだ。
9時には全員ロビーに集合。バスに乗って出発だ。
途中、アトラクションの一つとして
T川に架かる大きなつり橋を渡って遊歩道を散策し、
それからお昼を食べる計画になっていた。

揺れる。
大きなつり橋だが、人が渡るとギシギシと音を立てて大きく揺れる。
Aの顔がさらに青くなる。 橋の中ほどに差し掛かる。
T川の緑色の濁流が約20メートルほど下を流れている。雄大なものだ。
「あぁっ!!ああああ~~!」
突然の叫び声に驚いた。 Aのやつが叫んでいる。
何事かと駆け寄る。
「み、見ろ!水死体だ!」
そう言ってAは川面を指さす。
「なんだって?どこだ?」
「ほら、アレだ!人の頭が見えるぞ!頭頂部が水面に見える!」
Aが叫ぶので他のやつらもなんだなんだと川面を探すが、
そんなものは見当たらない。
Aが興奮しながら震える手でスマホを取り出す
「警察か?救急か?いや警察だ、警察に電話だ」
「うわぁっ!」
Aのやつがスマホ画面を見て絶叫し、あろうことかそのままスマホを放り投げてしまった。
スマホは運悪く川面へ向かって落下していった。
その瞬間の、Aが見ていたスマホ画面を、実は俺も見てしまった。
あれは紛れもなく電車とホームの間に挟まっていた
血塗られた人の頭頂部の写真だった。
あの時、死体の写真を撮った連中の中に、実はAも混じっていたのだ。
Aはその場に倒れこみ、数人でバスまでAを連れて引き返すことになった。

結局、水死体のようなものは誰も見つけることはできず、
また橋の下に落ちたAのスマホは回収する術もなく あきらめることになった。
Aは橋の揺れで気分を悪くして
貧血を起こしたのだろうということで話は収まったが、
俺にはそうは思えなかった。
あのまま周りに仲間がおらず、Aが一人だったら、
きっとそのまま川に飛び込んで、
川面から頭頂部だけを出して流れていくのは A本人だったに違いないと、
嫌な想像が脳裏をよぎる。

それからというもの、俺もすっかり人の頭頂部というものがなんだか苦手になってしまった。

 この記事へのコメント

  1. kama より:

    ご覧いただきありがとうございます。
    下から15行目、
    『あの時、死体の写真を撮った連中のに、実はAも混じっていたのだ。 』という部分に誤字がありました。修正している間に修正しきれず送ってしまったようです。
    正しくは・・・
    『あの時、死体の写真を撮った連中のなかに、実はAも混じっていたのだ。』でした。
    肝心なオチのところで誤字失礼しました。
    朗読などで使っていただける方はこちらを参照してください。よろしくお願いします。

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