赤いスポーツカー

 これは今の旦那と交際していた時の話です。
 彼とは10年前に付き合い始めました。
 私は全くそういった経験はないのですが、彼は心霊体験が多く、一緒にいる時も私は何も無いのに何度か怖い体験をしていました。
 その中でも1番怖かった話をしたいと思います。

 4年前に彼と夜ドライブをしていた時です。
 当時私達はあてもなく車を走らせ、都内から田舎の方まで好きな音楽をかけたり景色を楽しみながら、新しい発見をすることにハマっていました。
 目的地も時間も決まっていないので、その日は深夜まで車を走らせていました。
 おしゃべりに夢中で、気づくとあたりは暗い田舎道。
 ポツポツと民家はあるもの電気は着いておらず人の気配もない。
 街灯もまばらでなんだか寂しい雰囲気だねーとか話していたんですが、私が「怖い雰囲気だからムービー撮ってみるよ。後で見返したらなんかあるかも」と携帯を取り出して、撮影し始めました。
 景色は山の麓の部落のような感じになってきて、赤い鉄骨の橋を渡りました。
 ムービーと共に写真もパシャパシャ撮りました。
 赤い橋がなんとも言えず気持ち悪かったので、ちょうど橋に差し掛かった時に撮った写真を見返すと、写真一面に目が写っていました。
 それは両目ではなく片目。
 たくさんの人の片目がこちらをじっとみているのです。
 片側一車線ずつの赤い橋。両側に歩道もあります。
 その橋の手すりの所や骨組みの部分にびっしりと目がありました。
「なんか……撮れた。気持ち悪いよみてこれ」と彼に写真を見せると、 顔を歪めて「消した方がいいよそれ」と言われました。
 そのまま車はぐんぐんと山道に差し掛かっていきます。
 いつの間にか車線は一車線になっており街灯も無くなっていました。

 暫く走ると左側に看板が1つ。
 手書きで白地に黒い文字で「やまのこかえれ」と書いてあります。
 そこはT字路になっており右折をしました。
「どういう意味だろ」と2人で話していたんですが、そこから幅広の砂利道になりました。 車は進んでいきます。
 すると目の前から、赤いスポーツカーがすごいスピードでこっちに走ってきて、すれ違いました。
 初めて車とすれ違ったし、田舎には似合わない赤いスポーツカー。
「変だね」とポツリ彼が言いました。
 あたりは真っ暗で不安になってきました。
 左側にお墓が見えてきました。
「気持ち悪いよここ」と私。
 すると後ろからヘッドライトがチラチラ見えてきました。
 車が来ました。あの車です。
「え? なんで?」と2人で不思議に思うと、その車は私達を追い越しまた先に走っていきました。
 車の中で私達はシーンと喋ることも無くそのまま進んでいきます。
 正面に何かの建物が見えてきました。
 行き止まりでした。火葬場でした。
「あれ? 追い越して行った車は?」
「なにこれ、山一体が火葬場とお墓になってんじゃん帰ろ! 帰ろ。これ変だよ」と、火葬場の駐車場を急いでUターンして元来た道を引き返しました。
 するとまた後ろからヘッドライトが。 あの赤いスポーツカーです。
「やだ! 怖い!」と私が言うと、彼は「お前絶対後ろ見るな。」とバックミラーを見なが言いました。
 私は「わかった」と震えながら彼の肩にしがみついていました。
 暫く車は追い越さず煽り運転の車のようにベタづきで後ろに走っていました。
 と、その時。ぐぅーんと後ろの車が追い越して、またすごいスピードで追い越して言ったかと思うとそのままあの「やまのこかえれ」のT字路に差し掛かり、私達からの方向だと右折か左折しかない道で、ガードレールをすり抜けて真っ直ぐ森に消えていきました。
 私達は右折。
「なんだったんだ……あれ」
「早く帰ろ。やばいよ!」
そのあとはすぐに家に帰りました。

 道中は何事もなく無事に着きましたし、そのあと何かあった訳では無いのですが、 あの時バックミラーを見た彼が運転中「後ろの車だれも乗ってない」と ボソッと言っていたのは忘れられません。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-
投稿: ゲーデルの不完全ラジオ

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