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迷い入るモノ

今年(2017年)の1月のある日の体験談。

仕事仲間のタナカから昼飯おごるから会わないか?と、電話をもらった。

一見チャラそうだが 頭のいい、いわゆる人好きのするタイプの人間だ。

近くのファミレスで待ち合わせる約束をして 行ってみるとタナカはもう待っていた。

なんだかやつれたような顔をしている。

お互いさっさとメニューを注文すると、タナカはとにかく自分の話を聞いてくれと言う。

以下、飯を喰いながらのタナカの話

もうここ半年、同じ夢を20回以上も見ていて、誰かに聞いてもらわないと

いい加減つらいんだよ。スマンな。

 その夢はいつも見知らぬ街のど真ん中から始まるんだ。

大きな街で 高層ビルが林立していて、空は朝焼け前を思わせる薄明に見える。

いや、本当に街のど真ん中にオレは立っているんだよ。

だって片道4車線くらいあるめっちゃ広い道路の交差点のど真ん中に立っているんだから。

もちろん、車は一台もいない。広い整備された歩道は人が歩いていない。

ビルの どのフロアも全く電気がついていない。

空が明るいんだから、普通ならビルの上の方は明るくはっきりしていてもいいはずなのに

上に行くほど暗く影がさしてよく見えない。

そんな風景から始まるから、最近では「ヤバイ!あの夢か!」って即座に思うほどなんだ。夢の中で「これは夢だ!」って思ったらフツー目は覚めるもんだろ?

 広い交差点には歩道橋が架かっている。

四方向全部に真四角につながってるでっかい歩道橋で、エレベーター付きなのに

階段には自転車を押して渡れるようにスロープまでついてる。

そのスロープを 人影がひとり、全速力で駆け登っているのに気付くんだ。

そいつはてっぺんに着くとそのまま真っ直ぐ目の前の橋を駆け抜けようとするんだが

いつも途中で橋が落ちて、真っ逆さまに頭から車道へとたたきつけられるんだよ。

 で、オレは恐る恐る 倒れてるそいつのとこに歩み寄るんだ。

何回も見ている夢なんだからそのあとどうなるかわかってる。

絶対に近寄りたくないのにどうしても近寄っちゃうんだよ。

ありえない方向にねじれたその姿まであと2・3歩の位置までくると目の前の光景が

いきなり切り替わるんだ。

オレは至近距離で車道のアスファルトを見ている。

焦点がブレる嫌な感じでうまくピントが合わない。

 要するに 歩道橋から落ちたヤツとオレが入れ替わってるんだな。

体はまったく動かない。でも地面に倒れているのがわかる。

そして誰かが足音を忍ばせて そっと近づいてくるのがわかるんだ。

見たくない!って思っていても 目が動いてそいつを見上げてしまう。

でさ、こっちを見下ろしてるのはオレなんだよ。

 空をバックにしてるから逆光になってて薄暗い影が顔をぼかしている。

写真を見るような感じがするけど 確かにオレの顔なんだ。

無表情でノーリアクション。 どこまでも無機質な雰囲気なんだ。

で、突然そいつが

「ネンカシネンネェ」

ってつぶやいたところで目が覚めるんだよ。この寒い時期に汗だくで目が覚めるんだ。

熟睡できないせいで疲れが取れないどころか たまってるって感じでさぁ…。

 飯を喰いながらも夢の中身をまくしたてたタナカは、ぐったり背もたれに体をあずけ

大きなため息をついてうつむいた。

こういう時に気の利いた慰めの言葉のひとつも思いつかない自分を心の中で叱責する。

すると、自分の真後ろの席からいきなり声をかけられた。

「差し出がましいようですが、私の言うことを聞く気はありますか?」

 耳元でいきなり女性の静かな声がしたのでこっちは体が斜めにのけぞった。

タナカはびっくりまなこで顔を上げている。

「なんだか怖い夢の話が聞こえてしまったので、ちょっと悩んだけど

あなたがあまりに辛そうだから 失礼を承知でお声がけしました。

夢の意味を知りたいですか?」

タナカがフリーズしているので、自分はその女性に こちらに席を移すか、

自分たちがそちらに行きましょうか?と尋ねた。

「じゃあ 私がそちらに行きます。 でも人と待ち合わせをしているので

あまり時間はありません。 だから話の腰を折らないで聞いてください。」

紺色のゆったりしたロングのセーターとグレーのジーンズ姿のショートヘア女子が

自分のとなりに軽く腰を掛けた。

女性の年齢はよく読めないけど30才まではいってないように見える。

「自己紹介は無し。一期一会のご縁でお願いしますね。」

以下、その女性の話

夢の話全体から察するに、タナカさんは営業職なのでしょうか。

それもかなり多方面から頼りにされてる感じ。

しかもあなたはそれに対してきちんと仕事をされて、自社からも信頼が厚い。

それは街の様子がかなりの大都会に見えることと 広くて整備された道路からわかります。

立派な最新設備の歩道橋は 積み上げてきた仕事の完成度を表していると思われます。

 でも、それとは裏腹に、車や人がいなくて 立派なビルは稼働していない。

しかも建物の上部が暗くてよく見えない などは、成功のためにやったことへの

罪悪感とそれに伴う先々への不安の形でしょう。

お仕事ですから ある程度のことは仕方ないにしても 橋が崩れたうえに

そこから死に続くイメージが強いってことは、よっぽど心にひっかかることが

あるんじゃないかしら?

今と同じような手段をこれからも続けていては、いつかとりかえしのつかない

転落をするのではないかと意識下では強く感じているようです。

 死に瀕している自分のところに忍び寄る誰かは、あなたが結果的に

陥(おとしい)れた人のイメージ。

虫の息で倒れているあなたを 嘲りに来るのではないかと思う恐怖の形。

それが己の姿で見えるのは、やっぱり自分で自分を責めているのね…。

 今後、自分の行動ややり方を反省し改めて、夢の意味を正しく活かしていくのは

あなた次第です。 と、ここまではいいんですけど…。

ちょっと口ごもったが、彼女はタナカの顔をじっと見つめて

「タナカさんは北海道出身?」と、聞いた。

タナカは強く首を横にふって

「いや、両親も親戚すじも大井川から東にはまったく縁がありません。

先祖にも思い当たる話は聞かないです」と、答えた。

そうなの? 死に瀕したあなたが、無機質なあなた自身に言われた言葉

「ネンカシネンネェ」って「誰かひとり来たよ」って意味のアイヌ語に似ていると

思うんですけど。

あなたを見下ろすそっくりさんが黒々と赤い空を背にした風景は、景色が今までと

全く違うので、まるで あなたの夢の世界に何かが侵入しようとしているか

あなたが違う世界に迷い込もうとしているかのような イヤな感じがするのです。

 だから、タナカさんが何回も夢に見て気にしていることを本気で改めないと、

現実でも魔が刺してくるかもしれない。

心がけの本意を間違ったら取り返しがつかないってことを肝に銘じてくれると

私としてはお節介したかいがあります。 ああ!みっちゃん!ここ、ここ!

 最後の言葉はファミレスの出入り口できょろきょろしている女性に向けて

言った言葉だ。

言いながらショートヘアの彼女は立ち上がり、元の席からバッグと自分の伝票を

さっと取り上げると あっという間に「みっちゃん」の所まで行き、

レジを済ませて足早に店を出て行ってしまった。

 自分が唖然としながらタナカを見ると 同じようにぽかんとした顔をしていた。

「思い当たることが大量にあったみたいだなぁ」と、声をかけると

「う、うん。 そうか自分で自分にプレッシャーかけてたんだな。オレ。

 ん!?あああっ!! オレ、さっきの人にお礼も言えなかったー!」

「言葉のお礼よりも、実行することをお礼に変える方がいいって」

タナカはうるんだ目をちょっと伏せると

「オレ、マジ怖いわ。夢の中に魔物が入ってきてるか 逆にオレが迷い込んでるかもって

 言ってたよな?」

と、そう言ってから突然 タナカは目を伏せた姿勢のまま 固まったようになった。

こっちからはじっと箸(はし)を見つめているように見える。

「なんだよー? 箸がどうかしたのか?」

「あの人 何でわかったんだ?」タナカがぽつんとつぶやいた。

「赤いって。 赤い空って。 オレ、言ってないぞ そんなこと」

「え? 何が?」

「倒れてるオレが 近寄ってくるやつを見上げる時 そいつの後ろの空は

真っ赤なんだ。 夢の中でそこだけがはっきり色のある映像なんだ。

黒々と赤い・・・変な表現だけど黒々と赤い空なんだよ・・・」

―――――――――――――――――  ●  ―――――――――――――――――――

 最近、仕事を通じてわかるのだが、タナカの雰囲気からチャラさが薄れている。

きっとあの時の彼女に 行動をもって、全身全霊の感謝をしている表れが

実ってきているんだろうな。

悪夢もほとんど見ていないらしいし。

あの不思議な女性は今でも どこの誰かはナゾのままだ。

朗読: 繭狐の怖い話部屋
朗読: ジャックの怖い話部屋

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