ぶらさがり

私はとある県で看護師をしています。

勤務している病院は大昔に建てられたもので、古くから昔の服を着たナースの幽霊が現れたとか、休憩室で仮眠していると必ず見知らぬ女性に殺される夢を見る等の噂があるそうです。他にも沢山そういう噂があります。

また患者さんの自殺が多いことでも知られています。

突然病室から飛び降りたり、自分の手で首を絞めて窒息死したり…まぁデカイ病院ですし、様々な病状の患者さんが入院しているのでそういう方が多少なりともいらっしゃるのはしょうがないことなのかもしれませんが。

そんな病院に勤務し始めて半年経ったある日の事です。

その頃にはだいぶ慣れてきて、ある程度の業務をテキパキとこなせるようになってきていました。

しかし、私は夜の見回りをすることだけが凄く苦手でした。

夜の病院はとにかく怖いんです。

暗いし、昼間多くの人でざわついていた院内はひっそりと静まり返り、シーンという音でさえ聞こえてくる気がします。

そんな中をコツコツコツ…と自分の足音だけを響かせ、病室を一室一室チェックしていきます。

異常は無いかな。この患者さんはちゃんと寝れているだろうか。このおばあちゃんは夜中起きてることが多いよな。今日はちゃんと寝てるみたい。

そんなことを思いながらその日も見回りしていたんです。

そうして全ての部屋を見終え、元来た廊下を歩いていた時、違和感を感じて立ち止まりました。

それは廊下の先にある病室でした。

一見何もおかしなところはありません。先ほどもチェックした部屋ですので異常は無いはずです。

「何でこんなに違和感を感じるんだろう」

そう思いながらスーっと何気なく病室前の廊下の天井を見ました。

すると、天井に1本手が生えていたんです。

本当に手がぬるっと天井から生えています。

右手でした。

その手がゆーらゆーらとまるでブランコを楽しむかのように前後に揺れています。

私は思わず立ち止まりました。恐ろしいものを見てしまった。

前から先輩の看護師さんに言われていたんです。「病院ではあれこれこういう怖い噂が昔からあるし、勤務している看護師なら必ず一度は変なものを見る」と。

初めてその変なものを見てしまいました。

あ…あぁ…とショックのあまり声を上げると、その右手は私に気が付いたのか、揺れを止め、スゥーっと天井に消えていきました。

なんだったんだろう…私は疑問に思っていましたが、きっと疲れてたから変なもの見ちゃったんだろう。

そう思い、というかそう思うしかないその変なものを認めたくない一心でその日はそのままナースステーションに帰り、業務を終え、家に帰りました。

次の勤務日。

その日も夜勤だった私は夜の見回りをしていました。

全ての部屋をチェックし終え廊下を歩きます。

問題のあの部屋が目に入りました。

天井を見ます。

すると…また手が天井から生えていたんです。

しかも今度は両手。

両手はぶーらぶーらとまた揺れています。

するといつの間にかその手は正面を向き合わせ、手の甲をパーン!! パーン!!と勢いよく合わせ始めました。

パーン!! パーン!! パン!! パン!! パチン!! パチンパチンパチパチパチパチパチ…

まるで手の甲で拍手をしているかのようでした。

私はあまりにも異質な光景に声も出ず、その場で立ち止まっていました。

するとカラカラカラ…と病室の戸が開き始めました。

その病室で入院していた女性の患者さんがヌゥっと歩いて出てきたんです。

そして拍手している両手の下にピタリと立ち止まると、ボーッと正面を見始めました。

すると両手は拍手を止め、スゥーっと両手の先を天井から出してきました。

腕、肩、顔、上半身が出てきます。

男性でした。年齢は40代くらいでしょうか。

ニヤァと口を開けながら天井から垂れ下がり、その患者さんの髪を掴むと、そのままズルズルズル…と引っ張って廊下の先へ天井に垂れ下がったまま進み始めました。

その女性は横を向いた体勢のまま、ズーっと髪を引っ張られ、廊下を進んでいきます。

あぁ…あぁ… 私は声が出ませんでした。

そして廊下の先の窓に着くと、その女性は急に意識を取り戻し、窓をガラガラと開けると、ブチブチ!!という音と共にフッと飛びおりてしまいました。

天井には垂れ下がった男の背中だけが見えます。

女性の髪の毛を拳に握りしめていました。

男性はそのままスゥーと天井に消えていきました。

ギャァああああ!!! 

ようやく声が出た私は急いで他の看護師に報告をしにいき、バタバタと1階に降りていきます。

女性はもう亡くなってしまっていました。

満足そうな笑顔で。

結局あれ以来あの男性の姿は見ていませんが、あれはなんだったのでしょうか。

院内で自殺が多いのはあの男が絡んでいたのでしょうか

今となってはわからないままです。

私は今もその病院で働いています。

朗読: りっきぃの夜話

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