たたらら様

 うちの田舎には夏に祭りがある。神社の敷地に出店が少し出るようなちっちゃな祭り。

 神社の中で儀式が行われてるんだけど、ソレは見えるようにやってないから一般人からしたらホントただの祭り。
 俺は都内の大学で単位回収が楽そうってだけの理由で、民俗学やら文化人類学なんかを履修した事と、大学進学後に怪談を漁る趣味ができたことで、その祭りについて軽く調べて見る気になったんだ。
 大学2年の夏休み、祭りの時期に地元へ帰った俺は、祖母に祭りについて聞いてみた。
 さほど期待はしていなかったんだけど結構面白い話を聞けた。

 まとめると、どうやら神社の中でやってる儀式ってのは「たたらら様」っていう土着の厄神を静める儀式らしい。 元々その神社で祀って居たのはたたらら様とは別の神様で、生贄信仰が為されていたそうだ。
 年に一度村娘1人を生贄に捧げて無病息災や豊作を願い、御神体の鏡の前で舞を踊る。それが祭りの原形らしい。
 しかしある年の祭り。巫女さんが舞を踊りおわり儀式も終了というところで、御神体である鏡に大きなヒビが入り、巫女は首に発疹が浮き上がり痛烈な痛みを訴え倒れ、そして神への貢物として差し出された村娘の遺体が目や口から酷い悪臭のする泥の様なものを流しながら、「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして」と喋ったという。
 此れは1人娘を生贄に選ばれた両親が憎しみのあまり呪術を使い、過去の生贄達の怨念をひとつの厄神にまとめあげた結果であり、たたらら様の正体らしい。
 元々居た神は去ってしまったのかたたらら様に喰われたのか、信仰は消えて祭りもたたらら様を鎮めるものとなっていったとのこと。

 聞けても大まかな祭りの言い伝えくらいだと思ってたんだけど、祖母の話がやけに詳しいので理由を尋ねると内容をまとめた本があるらしい。
 この時はナルホドと思い、お盆が終わったころに東京のアパートに戻った。
 そんでその年の年末、実家の大掃除の手伝いでまた帰省したんだ。
 うちの実家は祖母の家と隣り合わせなんだけど祖母宅の大掃除中、見つけてしまった。
 祖母は本て言ってたから地域の歴史書みたいなのを想像してたんだけど、実際は同人誌みたいに薄かった。
 筆で崩し字(?)で書かれてるから正直なんて描いてあるかわかんなかったんだけど、面白いページを見つけた。たたらら様じゃない方の神様を降ろす儀式の舞が図で書かれている。
 舞と言うには少し簡単すぎるが、おそらく舞の前にも色々やることがあるのだろう。御神体の鏡の前に生贄の遺体が置かれている。
 これは必須なのかはわからないケド、図の巫女は和風の結婚式の白い花嫁みたいな格好してる。
 生贄の遺体の前で正座して、手をついて礼 顔を上げた後膝立ちに立ち上がり手のひらを上に向けて手を前へ伸ばす(手は水をすくうような形) 水をすくう手の形のまま手を右へ、次に左へ、そして上に掲げる。
 そして膝は曲げずに手を足下まで持っていき、水をすくうような形を崩す。(お辞儀っぽい)
 たぶん天(神)からの賜り物をこの地に…的な舞なのだと思う。もしくは雨乞い的なものだろうか?
 本文が読めないので祖母に聞きに行くととても嫌な顔をされた。
 御神体でなくとも割れた鏡の前で例の舞をすると、たたらら様に憑かれてしまうらしい。
 舞の事は興味を持った俺が万が一舞を御神体や割れた鏡の前で実行し、たたらら様に憑かれてはいけないとワザと黙っていたようだ。
 生贄は少女に限っていたこともあり、男が気に入られると九分九厘死ぬまでずっと憑き続けるそう。
 憑かれた時にどうなるかとか、たたらら様の見た目とか本にない事は祖母も詳しく知らないと言っていた。
 ただ、基本は助からないらしい。

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