鬼門の部屋

 2年ほど前、高校卒業を間近に控えた2月の初め頃。

 私は両親の都合で海外に住んでいたのだが、日本の大学への進学が決まり、入学の準備も兼ねて、しばらく日本の祖父母の家にお世話になる事となった。
 小さい頃も帰国した際は何泊か泊まったりしていたが、今回は1ヶ月ほどの長期滞在。
 祖父母と相談をし、2階へ続く階段を登ってすぐにある祖母の部屋を一緒に使おう、と決めた。
 というのも、その部屋には祖母のクローゼットしかなく、祖母は衣服を取りに行く以外その部屋をほとんど使っていないそうだ。
 寝る時も、祖母は祖父と共に奥の和室で寝るため 一緒に使うと言えど、その部屋はほとんど私の部屋となった。

 帰国初日は長旅に疲れ果て、いつの間にか寝てしまったためあまり覚えていないが、2日目、3日目と日が経つ事に 私はその部屋に違和感を感じ始めた。
 とにかく寒い。
 一日中暖房はつけっぱなしだし、もちろん寝る時だって暖房はガンガンにつけている。
 3日目以降はストーブも持ってきてつけてみたりしたが、何をしても部屋は暖まらない。
 おかしいなと思いながらも、ちょっと我慢すればいいかくらいの考えでいた。
 そして1週間ほど経った頃、いつもの様に朝起きて布団を片付けようと敷布団をめくったら、木製の床に人の形を型どるかのようにカビが生えていた。
 幼い子供が夏場に寝汗をかき、湿気でどうしてもカビが生えてしまうなどはよく聞く話だが、あれだけ寒がっていた私が寝汗などかくはずがない。
 しかもその、「人の形」というのが、どう見ても私の体よりふたまわりほど小さい人型だった。
 このように、この1週間変な事が続きはしたが、私も細かいことはあまり気にしないタイプなので、なんとなくまた1週間ほど過ぎた。
 祖父母の家は少し変わっていて、部屋の灯りのスイッチが全て部屋の外、つまり廊下の壁にあるのだが、祖母の部屋はスイッチの下に小さなランプがついていて、部屋の灯りがついている時はそのランプが赤く光り、消えている時はランプも消える。
 だから部屋の外にいても、部屋の灯りがついているのか、ついていないのかがわかるようになっている。

 ある日の昼間、祖母と1階の台所で昼食を作っている時。
 祖母から 「2階の奥の納戸からお味噌取ってきて」 と頼まれたので2階に行くと、祖母の部屋のスイッチのランプが赤く光っていた。
 祖母は1階にいるし、祖父は出かけている。
 私か、もしくは祖母が何かの折に部屋に入った時、消し忘れたのかなと思い電気を消した。
 その瞬間、部屋の中から 「サリサリサリサリ……」 と、こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえた。
 そして、中に人がいることを伝えるかのように、「コン……コン」と2回、内側からノックをされた。
 そしてその直後「ぅうぅあぁ……ぁあぁぅぅぅうぅ……」 と、吐息の交じった低いうめき声がはっきり聞こえた。
 部屋には、誰もいるはずがない。
 最初は泥棒かと思ったが、あのうめき声は間違いなく生きてる人間じゃない。
 私は全速力で階段を下り、祖母に今起きた出来事を話した。
 祖母はゆっくり瞬きをし、「……あそこはね、鬼門の部屋だから、そういうのとよく出くわすのよ。今度また、お寺さんで新しい御札、貰ってこようね……」と言っていた。

 その後も、私はその部屋で寝泊まりをし続けた。
 新しい御札を貼ったためか、寒さは少し和らいだが結局、暖かくはならなかった。
 そのほかにも、寝てる時足を踏まれたり、クローゼットの中から物音がしたりなど、不可解な事は続いたが そのうち慣れてしまった。
 あの部屋は鬼門の部屋。
 祖母が亡くなった今でも、たまに帰省した時は必ずお寺で御札を貰っていくようにしている。
 長文、失礼いたしました。

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