叫び

友人から聞いた話です。

彼女はある日、何車線もある広い国道の歩道を、自転車で走っていました。
もう少し進むと大きい交差点があり、その先にある本屋さんに行こうとしていました。
国道は結構すいていて、車はスピードを出し次から次へと彼女を追い越して行きます。
その車の走行音とは別に、何か甲高い女性の声が後ろから聞こえてきました。
「あぁーーーーー・・・・・」
その叫び声は紛れもなく、恐怖と苦痛に満ちていました。
友人はぎょっとして、自転車を止め周りを見渡しますが、女性は近くにいません。
いませんが、声だけが大きくなってゆきます。
(な、何、何!?)
彼女は不安にかられ、周りを何度も見渡しますが依然として何もありません。
歩行者や駐車場にいる人も、何の反応もありませんでした。
彼女は耳鳴りか何かで自分の耳かおかしくなったかと怯え、どっと冷や汗が流れるのを感じたそうです。
すると、友人の後方から凄いスピードで黒い車が走って来るのが見えました。
それと比例するかのように、その声も大きくなって来るのがわかりました。
段々大きくなる女性の声、近づく黒い車・・・。
彼女は言い知れぬ恐怖に震えながらその車を見ていましたが、逃げ出したくても体が動かなかったそうです。
その車はエンジンをうならせながら、
一陣の風とその叫び声とともに、彼女を追い越し、過ぎ去ってゆきます。

その途端、その声はふいに聞こえなくなりました。
その間、数秒か数十秒か彼女にはわからなかったそうですが、
そのわずかな間がとてつもなく長く感じたようです。
そうして彼女は、長いため息をつき自転車のハンドルを堅く握りしめた手を離し、額の汗を拭きました。
「本途、怖かったー。一体何だったのかわかんないけど、その黒い車から確かに聞こえたのよ」
そこまで聞いて私は気になっていたことを質問しました。
「変な人が車の中で騒いでたんじゃないの?窓、開けてさ」
「ううん。閉まってたし、中で叫んでる感じじゃなかった」
単純に言えば、救急車のサイレンの女性の声バージョンみたいだったそうです。
どっと疲れを感じた彼女は、とぼとぼと自転車を引きながら歩き始めたその時、
前方から鋭いブレーキ音と何かがぶつかる大きい重い音が聞こえてきました。
その音はさらに彼女を疲れさせ、今日は帰ろうと自宅に戻ったそうです。
「その事故が、あの車かどうかは見てないし、調べもしてないからわからないけど、
そのあとしばらく外出する時また聞こえるんじゃないかとビクビクしてた」
こわばった顔で彼女は言いました。

車に纏わり付く恐怖で絶叫する声、断末魔の叫び、
私は救急車のサイレンを聞く度、このことを思い出してしまいます。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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