摺り足

秋の運動会があった頃の話です。

当時アルバイトで新聞配達をしていたのですが事務的なことも担当していて、
配達員の給与計算とか細かなお金を計算したりと色々やらされていました。
その事務所には宿直もあってベテランたちが担当していたのですが、
その日の担当者が
「子どもの運動会で係りになったので朝一番に学校に行くので代わってほしい」と頼まれました。
配達が終わった後に寝てるだけで良い…と言う条件で
朝の5時から交代が来るまで寝てるだけなんて簡単と思いましたが、
事務所の二階にある宿直室は小汚ない四畳半の和室で、さらに布団も薄汚れています。
私は汚ない掛け布団を諦めて、敷き布団にくるまって寝る事にしました。
けっして快適とは言えませんが、
早起きして配達を終わらせた後なのでうつらうつらとし始めた頃に不意に気配がしました。

説明しにくいですが、何かが部屋に入ってきたような空気の変化を感じたのです。
「◯◯さん?」
私は交代に来る筈の人の名前を呼びました。
返事がありません…勘違いか?と思い寝直そうとすると畳に布が擦れる音が聴こえました。
四畳半の和室に入るにはガラスの引き戸があります開ければ分からない筈はありません。
二階へくる階段も鉄製で物音1つ立てずに上がって来るのは難しい…
なのに私の周りを布の擦れる音がしているのです。
意を決して敷き布団に挟まれた状態から部屋を見ました。
その音の主は汚ない足袋を履いていました。
その足袋を履いた足が私の周りを回って居るようでした。
音もなく現れたこの足の主からは生きている気配が全く感じられず、
恐怖に駆られた私は強く目を閉じて念仏を唱えました。

何分くらいたったでしょうか?
摺り足の音が消えたので私は布団から跳ね起きました。
すでに室内には何も居ませんでした。
私は恐怖心から部屋にあったTVを着けるとラジオ体操が始まったのでボリュームを上げ、
窓を全開に開けて窓の縁に腰掛けてドキドキしながら交代を待ちました。
交代のオッサンが来たので、オバケが出るとは知らなかったと訴えましたが
「何言ってんだ?」とからかわれただけでした。

その一件以来恐くなった私は、夜遅い時間になると恐くなってバイトを辞めました 。
辞めた後の事情は知りませんが、事務所は一年くらいで跡形も失くなって駐車場になっていました。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-
朗読: 怪談ロード倶楽部

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