誰も知らない心霊スポット

俺の住んでいる地域に不思議な廃屋があった。

周りに民家もない畑だけが広がっている真ん中に、平屋の住宅が1軒、
道からかなり入った所にあり、周囲は背の高い草や木が伸び放題で、藪を作っていた。
これだけ聞けば何の変哲もない廃屋だが、その家の裏側にある建造物が異色を放っていた。
簡単に言うとコンクリート製の壁が長方形に囲んでいる。
大体高さ2m以上、横5m、奥行き10mと言ったところだろうか。
長年の風雨にさらされ、側面は上から汚れが垂れたように黒ずみ、
斑になっているところもあり、相当昔に作られたようだった。
幼い頃、思い切って周囲をぐるっと回ってみたが、扉もなければハシゴすら付いていなかった。
一体、何につかわれていたんだろう。
「あれって何?」と親に聞いたこともあるが
「うーん、知らんなぁ」という返事が返ってくるだけだった。
だから、あんな見上げるようなコンクリート製の建造物に「不思議」というか「不自然さ」をずっと感じていた。
大学でそのコンクリート製の建物の話をしたら、自分も行って見たいという友人が何人か出てきた。
物好きだなと思いながら、友人たちを連れてゆくことになった。

深夜、待ち合わせのコンビニから車一台で出発した。
なぜ深夜かというと
「やっぱ、心霊スポットは夜でしょう」と友人たちが言い出したのだ。
俺は苦笑した。
「いや、そもそも心霊スポットでも何でもないし」
本当に山の中でもない、ただの畑しかないところの廃屋だ。
幽霊が出たとい噂すらない。

訪れたのは俺、A、B、Cの四人だった。
細い農道に車を止め、藪をかき分け廃屋に向かった。
藪の向こうに家がぼんやりと見える。
「へぇー結構雰囲気あるじゃん」
そういったのはAだった。
それぞれが懐中電灯を持って、あちこち照らしている。
俺はあんまりライトを振り回すなと忠告した。
近所に家がないといっても、なんかの拍子で警察に通報されても困る。
「ここって民家だったの?」
Cが聞いてきた。
ボロボロに土壁が剥げ、木枠の窓ガラスは割れている。
「俺も詳しいことはわからん。賃貸の住宅で2軒あったらしけど、一軒は火事で燃えたらしい」
家の中も見たかったが、とにかく先に例の壁を見に行こうということになった。
家を回り込み裏手に行くが、藪がかなりすごい。
足で背の高い草を倒したりしながらやっとの思いで抜けると魔の前に壁が現れた。

俺は正直少しビビっていた。
小さいころに来た記憶よりも、何倍も圧迫感がある。
それは他のメンバーも感じ取っていた。
「なんか・・・怖いね」
気の小さいCがポツリと言った。
「俺も」と自分も言った。
いくつものライトに照らし出される黒ずんだ壁、その壁の汚れが顔に見えそうで怖かった。
「ふーん、ここって何に使われてたの?」
Aが俺に聞くが、俺は何も知らないと答えた。
「中はどうなってんのかな。死体があったりして」 とBが言う。
俺とCは顔をしかめた。まあありえなくはない。
AとBは何だかんだとはしゃぎまくって、あまり怖がっていないようだった。
Bの提案で壁の周りを二人づつ分かれて、歩いてみることにした。
「何かホラー映画で良くあるじゃん」
俺とCは渋々同意し、左右二手に分かれた。
Cが俺とがいいと言い出して俺らは無言で右側を進み出した。
かなり育って、高さもある草をバキバキ折って進む。
反対側からも同じような音と、ぼそぼそと話し声が聞こえている。
「あれ?」
Cが突然止まった。
「何、何かあった?」
俺はなぜか小声でささやいた。 Cが無言で壁を指さした。

Cの指さした壁は明らかに他の壁と色が違っていた。
長方形で大人の身長よりすこし上、塗り直されたように新しく、明らかに修繕した後だった。
「これってドアの跡・・・?」
もともとドアがあり、取っ手を取って上からコンクリートか何かで塞いだようだった。
「気持ち悪・・・」とC。
「怖いけど、ちょっとなか見てみたいよな。どうなってんだろ」
そう俺が言うとCは疲れたか顔をしていた。
「はー・・・もう何でもいいから、帰りたい」
Cは来たことを後悔しているようだった。 その時だった。
壁の向こう側から「ドン」と音がした。
えっ?と二人で顔を見合わせた。
「い、今の何?」
「向こう側でAとBが脅かしてるんだろ」
「ドシン!」
また音が鳴った。
明らかに、壁の向こう側、俺たちのいる目の前の壁から聞こえた。
思わす俺はその壁に手を当てた。
「ガッツン!」
今度は遠くから大きい石か何か堅いものをぶつけてきた。
振動が手のひらに伝わる。
Cの顔を見たら、大きく目が見開きブルブルと震えていた。
到底、AやBに出来るとは思えなかった。
「に、逃げよう・・・」
俺はカラカラに乾いた喉から絞り出すように言った。
Cも頷き、来た方へ走り出した。
それとほぼ同時に、後ろから「おーい」と声がした。
俺とCはその声で、何かの糸が切れたかのように 「うわーーーー」 と叫び、藪の中を転げるように走った。
壁を通り過ぎ、藪をかき分け廃屋の横を抜け逃げた。
顔や腕のあちこちに傷が出来たが、かまってられなかった。
やっとの思いで道に出て、一息ついて振り返るとAとBが怒りの形相で追いかけてきた。
「お前らなんで逃げるんだよ!」
「この野郎!置いてくなよ!!」
AとBは口々に文句を言っていたが、こっちはこっちでまだ震えが止まらない。
「と、とにかくここを離れよう」
と、文句を言う二人を説得し集合場所のコンビニへ向かった。
車中でも何があったか問い詰められたが、
「とにかくコンビニで話す」と言った。
実際あれが本当の事かどうかもう確信が持てない。それはCも同じようだった。
コンビニでコーヒーを飲みながら一通り説明すると、Aが違うと言い出した。

AやBが言うには、予定では左右壁沿いに歩けばどこかで合うだろうと思っていたが、
一番奥まで着き右に壁沿いに曲がったが誰もいない。
「あいつら何、たらたら歩いてんの?」
ちょっと待ってみたが来ない。
というか、藪を踏み分ける音すらしない。
シーンとした静けさの中、二人は段々不安になってきた。
「何やってんだ」
AとBはブツブツ言いながら角を曲がると、俺らは居た。
二人とも口をあんぐり開けて、壁の上を眺めていたという。
「その顔ときたら何かめちゃくちゃショックなもの見たときの顔だった」
「で、俺らも気味が悪くなって・・・」
俺らは顔を見合わせ、首をかしげた。
まったく記憶がない。
そしてBは声をかけた途端、二人はかけ出して行ったのだという。
今度は4人で顔を見合わせた。
AとBは俺たちが聞いたあの音は全く聞いていなかった。
「狐にでも馬鹿された?」
Bは明るく言ったが、俺たちは心底怖がっていた。
あの音は、明らかにあの壁の向こうに何かがいた音だ。
「まったくなーお前ら、ちょー変だったし」
「やっぱ、何かあんじゃない?あの中。ドアが潰されているのも意味不明だし」
AとBの目がきらめいた。
逆に、俺とCはため息をついた。
「俺らは絶対行かんぞ!」
と言いながら、またそこに行くことになるんだが、長くなるので別の話で。

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