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小さな足跡

かなり暑い真夏の事。

私は夫の転勤で田舎に引っ越す事になった。
引っ越し先は古いアパートの2階。
夫の仕事の都合であちこちと転勤する事は 日常茶飯事。
夫はいつも出張だと言って家にいることはなく、夫婦の時間ってものは全くなかった。
子どももいないし、夫もほとんどいないようなものなので独り暮らしとさほど変わらなかった。
引っ越し作業も終え、古いアパートについた。
夫はすぐさまスーツケースを持って会社に向かった。
はじめての場所に一人でいるのは不安もあってか妙な胸騒ぎがした。
私は荷物をダンボールから取り出していると、 玄関先から子どもの声とともに足音が聞こえた。
ペタペタペタ、ズッー ペタペタペタ、ズッー ペタペタペタ、ズッー
そしてうしろから追うように革靴のような
カコッ、カコッ、カコッという足音が聞こえた。
不自然な音ではあったが、 このアパートに親子連れでもいるのだろうと、 さほど気にはならなかった。
荷物整理が終わったところで、 私は近所まわりに挨拶することにした。
まずは左隣の部屋。 感じのいいおばあさんだった。
「隣に引っ越してきたものです」 と言うと
おばさんが 「ご丁寧にありがとう」 「ところで、あなたは1人?」 と聞かれ
「いえ、旦那と2人です」 と答えるととっさに
「あら、よかった」 「お子さんはまだなの?」 と世間話が続いた。
右隣の家の人が丁度帰ってきたみたいだったので
「あの、隣に引っ越しきたものです」 と伝えると
「よろしくお願いします」 と深々と頭を下げ礼儀正しい青年だった。
スーツをビシッと着ているのできっとお堅い仕事なのだろうと勝手に想像した。
挨拶をすまし、家に戻り夕食をひとりで食べていると
ペタペタペタ ペタペタペタ と、また子どもの足音が聞こえた。
夜の22時、子どもが外を歩くのはさすがに不自然に思いそっと玄関先をみた。
ガチャ っと扉をあけると、そこはシーンっとしていて夏の夜の冷たさを感じた。
気のせいだ、疲れてるのだろうと思い寝室に戻り横になった。

次の日、 私は近くのスーパーまで買い物に行った。
歩く距離は多少あるものの、 色んな景色を見ながら散歩がてらスーパーまで目指したのだ。
途中に田んぼがあり、 神社の鳥居の先をしばらく進むとスーパーがある。
スーパーにつくと一目散に特売のお目当てのお野菜などを手にいれた。
そうこうしているうちに雨が降って来たので私はすぐに帰る事にした。
先ほどの田んぼの前を通ると子どもたちが泥遊びをしたのか
そこらじゅう暴れまわったような足跡がいっぱい出来ており泥まみれの靴跡が帰り道を示していた。
足跡をたどるとそれは私のアパートの前でとまっていた。
自分の家に戻ろうとすると隣のおばあさんが玄関から出てきて話しかけてきた。
「あなた、お子さんはいないって言ったわよね」
「あなたのところが引っ越してきてから子どもの声が聞こえるのよ」
「このアパートには子どもがいないしね」
とおばあさんはしゃべり続けている。
私はさっきの田んぼからの子ども足跡のことをおばあさんに言った。
おばあさんは急にだまり、 「なるほどねぇ」 と言ってそそくさと家に戻ってしまった。

家に戻り夕飯の支度をしてると、 玄関先から
ペタペタペタ、ズッー ペタペタペタ、ズッー ペタペタペタ、ズッー
また、あの音が聞こえた。
キッチンとアパートの渡り廊下は近いので
耳を澄ますと子どもの声で 「どーして?」 と言ってるように聞こえた。
すると玄関から ドン、ドン、ドン、ドンッ と叩く音が聞こえた。
私は怖くなって恐る恐る玄関へ行き覗き穴をみた。
途端に ガチャ!! と鍵があき私は驚きしりもちをついた。
扉がひらくと 「何してるんだ?」 と夫が不思議そうな顔をしていた。
目の前にたってるのは夫だった。
私は 「もう、驚かせないでよ」 と怒ったふりで言うと
「何度も呼んだんだぞ!聞こえなかったのか?」 と首をかしげていた。
私は夫に子どもの声が聞こえなかったか聞いたが誰もいなかったと言われた。
夕食を食べ、寝室で横になっているとまたあの音が聞こえてきた。
ペタペタペタ、ズッー ペタペタペタ、ズッー ペタペタペタ、ズッー
次第に音が大きくなって ダダダダッと 階段を勢いよく降りる音が聞こえた。
大きな音にさすがに夫も私も起き上がり、 様子を見に行くことにした。
玄関のドアをあけると、 隣のおばあさんも隣の青年も玄関をあけていた。
下を見ると大量の泥のついた足跡… いや、よく見ると赤黒い血のようなものだとわかった。
横の青年は無表情に革靴で足跡をぐりぐりとして消していた。
隣のおばあさんも寂しそうな顔をしながら、ぶつぶつ言いながら首を横に振っていた。
そのあと警察がきたが、 誰かがいたずらで動物の血をまいたのだろうと言っていた。 私たちも事情聴取された。
犯人はわからずじまいだった。

それからはあの足音を聞くことはなかった。
しばらく時はたち、 私は妊娠したが流産してしまった。
病室のベッドの上でかすかに、 ペタペタペタ、ズッー という音と、 子どもの声で 「どーして?」 と聞こえた。
私はなぜだか 「ごめんね」 と言いながら涙をながしながら少し眠った。
退院し、あの部屋に戻った。
また、夫の転勤で引っ越す事になった。
隣のおばあさんに挨拶をしに行くと おばあさんは
「そうかい、実はな…。」 と言いかけた。
その途端右隣の青年が玄関から出てきて、 こちらをジッーと見ていた。
何か聞いてはいけない真相があると思いながら私は聞かずに引っ越した。
引っ越し後にわかったことが1つある。
その町には未解決の少年少女失踪事件があった。
もしかしてと考えると背すじがぞっとした。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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