雨が降ってくれてよかった。

 それは高校を卒業した後日。たしか10日後くらいだったかな。
 僕らは連絡を取り合い、「クラスメイトみんなで集まってなにかしよう。」ということになった。

 当日、突然雨が降ってきたせいで僕は時間ギリギリでついたんだけど、「多分行けないと思う」って言っていたTくんが時間ギリギリで来ることができた。 傘を忘れたのか全身ずぶ濡れだったんだけどね。
 でも代わりにSさんは「楽しみにしてるね」と言っていたのに来ることができなかった。 連絡しても既読もつかないし一体どうしたんだろう。
 雨が降っているということで、外でなにかすることはできないし、Tくんが傘を持ってないようだったので遠くに行けず、近くの店で食事をすることにしたんだ。
 流石に30人もいると予約でもしておかないと無理だから数人でグループを作って別々の店に入ることにしたんだ。
 これだと集まった意味がないんじゃないかと思うんだけど仕方ないよね。

 僕はTくんとKくん、あと女子二人と店に入ったんだ。
 それで、食事の途中に「最近起きたいいことはあるか」という話になったんだ。 それで女子2人が先に言って、3番目だった僕は「特にないかなぁ。今日だって雨が降ってそのせいで遅れそうになっちゃったしね」と答えたんだ。
 次にKくんは「俺も特にないけど、みんなとあえて良かったと思ってるよ。卒業してからあまり経ってないけどね。あぁ、でもSさんはこれてないんだったな。」って言った。
 最後にTくんなんだけど変なことを言っていて
「最近だと同じく特にないんだけど、そうだな…今日、雨が降ってくれてよかったと思ってる。そのおかげで俺はこれたしな」
 なんてことを言ってたんだ。 さっきも言ったけど全身ずぶ濡れで来てたんだけどね。
 その頃に食べ終わったし店を出て、みんなとあった後に解散したんだ。

 後日、特にすることもなかったからニュースを見てたら、Sさんが殺害されたと報道されていた。
 僕は突然のことでピタッと固まってしまった。
 死亡推定時刻はみんなで集まった当日でしかも集まった時間の少し前。
 最初は信じたくなかった。
 場所は家の中だから通り魔なんてことはないし、強盗だとしてもおかしいらしい。
 家は荒らされてないし何も奪われてないという。
 まるでSさんを殺すことしか考えてなかったかのように何度も刺されてたんだって。
 そこで僕は考えてはいけないことを考えてしまった。
 もしかしたらTくんが犯人なんじゃないかってね。
 僕だって遅れそうだったから時間ギリギリだったのは普通だとしても、全身ずぶ濡れなのはおかしいんだ。 だってたかだか雨だ。 なのにTくんは水浸しだった。

 みんなは雨の中走ったことがあるかい? ある人は思い出してみよう。
 全身濡れたことがあるかい? 僕はない。
 それにTくんは「雨が降ってくれてよかった」と言っていた。
 それはもしかしてSさんの家に入り、殺害。
 Sさんの家はインターホンを押されるとカメラに映るらしいので、知り合いでなければ開けないだろう。
 それでシャワーかお風呂かに服を着たまま入ることで頑張って血を落とそうとしたんじゃないだろうか。
 だから雨が降ったことで服が濡れてることを誤魔化せたから「良かった」なんて言ったのではないか。
 服を着替えなかったのは着替えることができなかったから。
 女の子の家なんだから男用の服なんてあるわけがない。
 そしてその後僕らのところに来ることでアリバイを作ろうとした。

 そこまで考えたら恐ろしくなった。 でも、恐ろしくなった理由はそれだけじゃないんだ。
 どこからか視線を感じた。
 誰も家に淹れてないからリビングの窓からだろうかとそちらを覗くと人影があったんだ。
 まさかと思ってカーテンを開けたんだ。
 そしたらTくんが窓にベッタリと張り付いて僕を見ていた。
 口が動いていた。
 声は聞こえなかったけどなんて言ってるかわかってしまったんだ。
「気づいてしまったんだね。じゃあ次は君の番だ」
 僕は恐ろしくなって逃げ出した。 警察には言っていない。
 言おうかと思うと必ずどこからか視線を感じるんだ。

 だからもう彼のことは考えるのをやめてしまった。

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