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速い女

緊急非常事態宣言が下され、外出自粛となったゴールデンウイーク。
あまりに家に閉じこもりすぎて体中が凝り固まり、閉塞感で息が詰まりそうになったため、
これまで自粛していた散歩を再開することにした。
「まぁマスクをして三密を避ければ大丈夫だろう」
ボクのお気に入りの散歩コースは、H駅とN駅の間を通る往復5キロの桜並木。
自然が豊富なのが散歩コースとして最適だ。
歩いていると左手に大きなS大学病院が見えてくる。
まるでホテルのような立派な入院棟もある病院だ。
よく見てみると、入り口付近の救急車などを停めている駐車場の一角に、大き目の白いテントが二つ出来ていた。
間違いない。例のウイルス対策のための簡易隔離施設だ。
「とうとうこんな物ができたのか。もしもボクが病気になったらここにやっかいになるのかな?」
そんなことを考えながら、SNSにアップしようと遠巻きにテントの写真を撮っていた。

さて、散歩に戻ろうかと歩き始めた時、病院のエントランスからとてもキレイな女の人が出てきた。
細身で比較的長身のモデル体型。
薄茶色の透けたワンピースを着ていて、中に黒っぽい短めのスカートなどが 見えるオシャレなファッション。
髪型はショート・ボブといったところ。
「うわ~キレイな人だなぁ~」と少し見とれてしまった。
しかもその彼女がボクと同じ散歩コースを同じ方向に歩きだしていた。
「おっ、今日はキレイな人の後姿を眺めながら散歩できるなんて、少しラッキーだな」
なんて軽く下心を持ちながら、ボクも歩きだした。

しばらくして「おやっ?」と思った。
彼女がどんどん遠ざかっていくのである。
5メートル、10メートル、15メートル・・・・
「オイオイ、自慢じゃないけどボクだって歩くスピードはけっこう速い方なんだよ」
なのにどんどん離されていく。20メートル、30メートル・・・
彼女の歩く動きを見ると、テンポはボクと大差ない。
もちろん彼女は背の高い人だから、ボクより歩幅が大きいのかもしれない。
「くっそ、負けてられねぇ!もう30回転ケイデンスをあげろ!」
某マンガのセリフを引用して少し早歩きをしてみた。
いや、走れば追いつくかもしれないけれど、ここで走って追いつくと何かに負ける気がした。
かなり速足で歩いていく。

はぁはぁ・・・だんだんこっちも息が上がってくる。
なのに、彼女との距離は一向に縮まらない。
縮まらないどころかまだどんどん離されている。 40メートル、50メートル・・・
「いったいどうなってんだろ」と立ち止まって彼女の後姿をながめてみる。
美しい彼女は、赤信号も無視して横断歩道を渡ろうとする。
その瞬間
「あっ!!」
クルマが走って来て彼女を・・・・!
・・・轢いていない。
クルマも彼女も何事もなかったかのように普通に通り過ぎていく。
「いや、今、明らかにぶつかっただろ!?」
と驚くと共に、気が付いた。
「そうか、彼女は生きている人間じゃないんだ・・・病院から出てきたってのはそーゆーことか・・・」

変に納得したボクはその場にたたずみ、
運動の汗なのか、冷や汗なのかわからない汗でぴっしょりになっていた。
「今日はもう帰ろう・・・」
ボクはとぼとぼと散歩道を引き返した。
彼女の姿はもう見えなくなっていた。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-
朗読: 繭狐の怖い話部屋

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