座敷童

今から30年ほど前の出来事です。

某テーマパークの園内で一番品揃えの良いグッズ販売の店舗でアルバイトをしていました。
私の契約は土日祭日の早朝からのシフトで勤務、
数時間おきに別のスタッフが随時シフトに入ってくるという店舗でした。
園内でも1〜2を争う売上を誇る店舗だったので、全部で18台というレジ数があり、
週末や祭日はスタッフ数もかなり多かったので、
毎回の勤務時は別のシフトから回されてきたスタッフもいたため、初めて会うスタッフも多かったのです。
そして当時、店員が着る制服は赤と青と2種類あり、
その人の好みによって色を選んで良いという店舗でした。
私は赤を好んで着ており、その日も赤を着ていました。

私が勤務したある日、週末でしたが午前中はお客さんは少なく、店内は穏やかな雰囲気でした。
すぐに乗り物に乗らずにショッピングをするお客さんもいましたので、
店内にはまばらですが数人のお客さんがショッピングを楽しんでいる状況でした。
私は店内中央にある8角形のレジカウンターにある4台のレジの中、
1台のみ開けてあるレジ前に立ちながら、会計をするお客さんの対応をしていました。
そのレジカウンターの周りにも沢山の商品が置かれ、品出しをしているスタッフもいました。

開園してから1時間ほどして、私が数人のお客さんの会計をしたところで、
カウンター越しの私の担当するレジの側で、
キーホルダーの什器に商品の補充をしているスタッフが左側の視界にはいっていました。
髪が長く、当時流行りだったパーマを全体にかけており、
青い制服を着ている、という事だけ目の隅で認識していました。
沢山の商品を買っていかれたお客さんがいたため、一万円札が多くなってしまい、
「レジの中の釣り銭が少なくなってきたから、そろそろ両替したいな。」
と考えていました。

私はレジを離れられない為、他のスタッフに頼んで、
店舗の内側にある事務所に両替に行ってもらおうと、
私の左側でキーホルダーを補充してたスタッフに、レジを開けながら声をかけました。
「すみません、この一万円札を5千円札に、、、」
と言いながらそばに居るスタッフの方を向きました。
すると、私の左側の視界にいたスタッフが、いないのです。
「あれ?今そこで、キーホルダーを一個一個什器に補充していたんだけど、、、、おかしいな、、、、⁈」
と思い、仕方がないので、少し離れたところにいた別のスタッフに声をかけて両替してきてもらいました。

それから少しして、お昼の休憩時間になり、数人のスタッフと一緒に昼食を食べに休憩所へ行きました。
数人のスタッフと昼食を取りながら談笑していた時に、先程の不思議な話をしました。
すると、長くその店舗で働いていた先輩スタッフが、こんな話をしてくれました。

「私たちが働く店舗は、園内の中でも売り上げが高い店舗だからか、開園当時から二階の倉庫に座敷童がいるの。」
以前、店内の中央に飾り階段があり、
その階段が邪魔をして店内の見通しが悪かったので、改装をして階段を撤去した、という経緯がありました。
改装した事で、店内の見通しも明るくなり、売り上げもかなり上がっていました。
先輩スタッフは続けてこう話します。
「以前あった飾り階段の数段目に、時々座敷童が座ってるのを目撃していたスタッフが何人かいたのよ。
今はその飾り階段が無くなってしまったので、座敷童も居場所が無くなって、
降りてきていて、時々スタッフに紛れて仕事をしているらしいの。」
との事。

座敷童は特に人に対して悪さをする訳ではなく、店内を見回していたり、
お客さんが楽しそうにしているのを眺めていたり、私が見たときのようにスタッフとして仕事をしていたりするようです。
座敷童がいると、その店は繁盛するという謂れがあり、
飾り階段を撤去してからは、園内一の売上を誇る店舗になったそうです。
私が、スタッフに扮したその座敷童に出会った時、
特に寒気がしたとか異様な雰囲気だったという事もなく、怖さも全く感じませんでした。
唯一の印象は、青い制服を着ていたので、『クールな感じだった』というだけでした。

数年後にまた改装し、隣の店舗と繋げて、今は巨大な店舗へと変貌を遂げ、
当時の制服も新しいものへと変わり、昔とは随分と様変わりしましたが、
園内でも大繁盛している店舗である事は変わっていません。
今もあの座敷童が時々出没しているんだろうな、と、
某テーマパークを訪れたときは、そんな想いを抱きます。
今までの人生で初めて体験したこの不思議なお話は、
恐怖体験というよりも、少しほっこりする妖怪話です。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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