追いかける死

加藤さんはこの夏に北海道の高校へと転校してきた。
活発なタイプとは程遠いが、他人とのコミュニケーションが特段苦手と言う訳でもない。
少し大人しめの普通の女子高生であると自負している。
だからその日の休み時間に興味津々で机の周りに集まってきたクラスメートからの質問攻めにも、にこやかに受け答えしていた。

加藤さんの生まれは福岡だが、父親が所謂転勤族というやつで、小学校の頃に大阪、そして埼玉。
中学生の頃には宮城へ、と言った具合に北上するような形で引っ越しがあり、
彼女自身もその都度転校を続けてきた。
そしてこの夏、加藤さん自身4回目になる転校が、ここ北海道であった。
小学校の頃は、従来の大人しい性格からクラスに上手く馴染めず、気付けば孤立していたものだったが、
流石に回数を重ねた事で、クラスメートとの距離感も無難にこなせるようになっていった。

加藤さんが転校してきて2週間が経った。
何とかクラスの中に上手く溶け込むことが出来た、と実感し始めたある昼休みの事である。
加藤さんを含む数人の男女で、取り止めもない雑談をしていた時、
何となく会話の流れから一人の男子が怪談話を始めた。
話自体はどこかで聞いたことのあるようなものを2、3個無理矢理くっ付けたようなものであり、
大して怖いとも思えないものだった。
触発された他の数人も負けじと話を始めるが、どれも聞いたことのあるような話ばかりである。

それらの話をつまらなさそうに聞いていた一人の女子が、
ふと思い付いたような顔をすると加藤さんを覗き込んだ。
「加藤さんは何かそういう話持ってる?」
聞けば、転校が多い彼女ならその土地その土地で怖い話の一つでも聞いたことがあるのではないか、との事。
だが生憎加藤さんには心霊体験はおろか、話を聞いたことすらなかった。
素直に伝えた加藤さんは残念そうな表情のみんなを見て申し訳なくなったが、
その時ふと昔の話を思い出した。
怖いと言うよりも不思議な話、といった感じだが、それでも良いかと尋ねると、皆満場一致で頷いた。

これは加藤さんがまだ小学校低学年で福岡に住んでいた頃の話だ。
ある日、近所の子供が亡くなった。川で水遊びをしていて流されてしまったらしい。
加藤さんとも年が近かった為、親から遊ぶ際には強く注意をされた事を覚えている。
その翌月、その亡くなった子の隣の家で、老人が亡くなった。
元々病気持ちだったらしいが、急に症状が悪化し、あっという間の事だったらしい。
子供ながらに何となく違和感を感じていた加藤さんだったが、その違和感の正体は翌月明らかになる。
その老人の家の隣の住人が亡くなったのだ。
まさか、と思っていたが更にその翌月にはその隣人が亡くなった。
これで毎月連続して四軒の家から死者が出た事になる。
加藤さんは幼かったせいか、怖いと言うよりも、不思議だな、と感じていたと言う。
ただ勿論両親は非常に気味悪がっていた。
何故なら今月亡くなった家の隣が、加藤さんの家だったからだ。

ここまで話して周りを見回すと、聞いていたクラスメート達は一様に眉根を寄せていた。
「十分怖いじゃない!それでその後はどうなったの?」
一人の女子が代表するような形で尋ねた。
「その後すぐに引っ越しちゃったから。うちの家族も元気だし、怖い偶然が続いたんだろうね」
加藤さんがそう言うと、皆ホッとした表情を浮かべた。
「何だ。私、もしかして両親のどちらかが亡くなったんじゃないかと思って。悪いこと聞いちゃったかな、って心配した」
「全然元気だよ。ただ中学校の時に広島のおばあちゃんと、
一年前に中学の時の友人が病気で亡くなっちゃったけど、これは関係ないみたい」

なあんだ、良かった、と周りがざわつき出した時、
それまで黙っていた一人の男子が、「そうかな」と小さく呟いた。
加藤さんも含めて周りが一斉にその男子を見た。
その男子が加藤さんをじっと見つめながら尋ねてくる。
「加藤さん、中学はどこ?」
埼玉だ、と答えると、その男子はやっぱりと言った様に二、三頷くと続けてこう言ったのだと言う。
「それってさ、その『何か』が君を追いかけてきて、まずはそこまでたどり着いた様に見えるけど」
一瞬間を置いて、加藤さんは背筋が寒くなった。
そんな事考えたこともなかった。だが言われてみればそう見えなくもない。
変な事言ってごめん、と謝るその男子に、ううんと無理に笑顔を作ったが、
陰鬱とした気分は抜けず、午後の授業は上の空だった。

嫌な気分のまま、一人俯いて帰る。
考えまいとするが、そうすればると余計に昼間の話の事を考えてしまう。
気がつけば家の前まで来ていた。
暗い気分で顔を上げると、隣の家の前に人だかりが出来ている。
嫌な予感を感じつつ、顔見知りの近隣住人の姿を見つけ、何があったのかと尋ねた。
どうやら加藤さんの隣の家の老人が、死体で発見されたのだと言う。
それも死後、一ヶ月弱経っていたのだそうだ。
身寄りのない老人だった為、発見がかなり遅れた様だった。
加藤さんは戦慄した。
既に一ヶ月前にはここにたどり着いていたのだ。
隣の老人が亡くなったのが約一ヶ月前。
と言う事は、次の月まで残された日は…?

加藤さんは、悲鳴を上げながら家に自宅に飛び込んだ。

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