ブルーなマダム

 もう20年以上も前のことです。

 私は高校生で、幼なじみのNちゃんと一緒に、地元のド田舎から電車で1時間半くらいかけて、県内では一番栄えていた町に休日のたびによく遊びに行っていました。
 休日には老若男女たくさんの人が行き交います。

 初夏の晴れた日でした。
 Nちゃんとお喋りしながら歩いていると、前方から、物凄く目立つ女性が歩いてきます。
 年齢はだいたい40代くらいでしょうか。
 服装は薄手の長袖と、膝下までのフレアスカートで、軽いウェーブがかった黒い長い髪を真ん中分けにして、髪の先がふわっと揺れていました。
 右手には、洋風のお人形を抱えていて、女性の表情はとてもニコニコしていて、穏やかな顔をしていました。
 でも、服から露出しているお肌が、青いのです。
 手、顔、首、足、見える限りのお肌が、青い。 暗い感じの深い青でした。
 お人形は、見た感じは男の子の容姿でした。デニムのオーバーオールの服を着ていました。

「何、あの人……」
 Nちゃんが喋るのを遮って、私はNちゃんの腕をそっと掴んで言いました。
「へっ? 何が? どうしたん?」
Nちゃんは見えてないようでした。
「青いじゃん、あの女の人、すげー青いじゃん」
よくわからないげと声をひそめて私が言うと、 「青い? 青い服ってこと?」
 Nちゃんは気付きません。
 そんな短い会話の最中に、女性は私達とすれ違い、通り過ぎていきました。
 至近距離をすれ違って行ったのに……Nちゃんには見えてない。
 私は振り向いてその女性を目で追いました。
 他の人達も、みんな気付かないみたいで何も気に留める様子がありませんでしたが、その中で2人の人がその女性を見てギョッとする表情をしていました。
 あの場ではその2人の人と、私だけ青い女性に気付いたという感じでした。
 Nちゃんには見えてないなら、それをしつこく言ってもしょうがないので、私の気のせいってことにしました。

 それから数日経つと、そんな不思議な感覚も忘れていきましたが、ある日の夕方に母親にお使いを頼まれて近くの小さな商店にカレーのルーを買いに行った時、同じくお使いで来ていた中学時代の後輩にたまたま会いました。
 最近どうよ? とか、なんかそんな適当な会話をして、買い物をしてお店を出たら、後輩が「あっ! そういえば、昨日、親戚のお葬式で○町に行ってきたんですよ」
 ○町というのは、その栄えてる町のことです。
 後輩は、お葬式のあと寄りたいお店があったので、ご両親に付き合ってもらって町を歩いたそうです。
「そしたら、なんかやたら青い女の人が居て、」
 そこで私は「えっ!?」と驚きました。
 その反応を見て後輩は、「先輩、知ってるの……?」と、少し安心したような顔をしている後輩を見て、 「ああ、きっと後輩にしか見えてなかったんだな、
ご両親には見えてないって言われたんだろうな」と、察しました。
 後輩と、この先またその青い女性を見たら報告し合おう、と約束してその場は別れました。

 それからはそんな青い女性を見ることは無く、後輩ともそれっきり偶然会うこともありませんでした。
 肌が青いというだけで、不気味とか怖いとかは無く、ただただ不思議な体験でした。
 青い女性、見たことがあるという方、他にいらっしゃいますか?

朗読: 榊原夢の牢毒ちゃんねる
朗読: 思わず..涙。
朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる