先日、階段とカセットテープのお話を投稿したのですが、そのときに話が長くなると思って書かなかったエピソードがありますので、今回、別のお話として投稿させていただきます。
高校生の頃、友人Nさんの新居に初めて泊まったHさん。
階段を誰かが登ってくる度にカセットデッキが止まるという不思議体験をしつつも、Nさんがあまりにあっけらかんとしているのでさほど怖いとは思わず、夜も更けてきたのでそろそろ寝ようということになりました。
Nさんの部屋に布団を並べて敷いてもらい、床についてしばらくはおしゃべりを続けていたのですが、いつの間にか眠りに落ちていました。
目が覚めたのは夜中、2時半頃のことです。
「H! H! しっかりして! 起きて!」
誰かに肩を掴まれ、ゆすられ、名前を呼ばれ、Hさんが戸惑いながら目をあけると、目の前には必死の形相のNさんがいました。
「Nちゃん? なに? どうしたの?」
まだ寝ぼけながら問いかけると、Nさんが少しだけホッとしながらも厳しい表情を崩さないまま質問してきました。
「H、あんた、覚えてる?」
「へ? 何が?」
「今自分がなにやってたか、おぼえてる?」
「いや、寝てたけど……」
いびきでもかいたか、歯ぎしりか、それとも恥ずかし寝言でも言っていたかと考えていると、Nさんがこう聞きました。
「あんた、正座して寝るの?」
そこで初めて、自分が目を覚ましたときからずっと、正座したままの状態でいることにHさんは気づきました。
そういえば、足がかなり痺れている……。
「ちょっと前にね、なにか声が聞こえるから目が覚めたの。あんたが起きて話しかけてきてるのかと思って」
Nさん曰く、目をあけると隣の布団にHさんがきちんと正座しており、何かを喋っていたのだそうです。
自分に話しかけているのかと思ったのですが、よく聞くと
「はい……。はい……。わかりました……。はい……。そうですね……。うん」
というふうに、誰かに相槌を打っているような感じだったのだそうです。
寝ぼけているのかも、と思ったのですが、Hさんの目は閉じたままでどう見ても眠っているし、じゃあ寝言かと思ったのですが、背筋を伸ばしてあまりにもきちんと正座しているし、わけがわからなくなったのだそうです。
「あまりにも淡々と、はい、はい、そうですね、って繰り返してるから、私だんだん怖くなってきてね、そしたら少しずつその相槌のスピードがあがってきて、これはマズイんじゃないかって思いはじめたら、あんた最後になんていったか覚えてる?」
Hさんは首を横に振った。
「あんたね、『はい、今から行きます』って言ったんだよ」
それで慌てて飛び起きて肩を掴み、無理やり起こしたのだという。
Hさんには、一切記憶がない。
「ただそれだけなんだけど、なんかこわくてねー」とHさんは話を締めくくった。