線路は続くよ

つい昨夜(2017/10/13現在)久々に不思議な体験をしました。

あいかわらず その渦中にいながら、自分は全く気付いていなかった

体験談です。

 3日前、仕事の関係で、とある山あいの町に出張することになりました。

仕事仲間2人と自分の3人でタッグを組んで仕事をこなすこととなり、

特にその中のひとりが鉄道を趣味にしていたので、旅程など全てまかせて

電車の旅を堪能することにしました。

 出かけた日は天気がよく、真夏のように暑い日でしたが、さすがに山の空気は涼しく

本格的な紅葉はまだでも、夏とは違う柔らかな色合いに変化し始めていたので、

谷あいを川にそって走る単線列車の旅は、仕事とは言え楽しいものでした。

 終着駅からバスで3つほど離れた旅館は、鉄筋の新館もあるのですが、

鉄道マニアが予約してくれたのは昔日の姿の旧館で、なかなか趣がある木造でした。

温泉もあるので、夜を楽しみに、昼間は分担した仕事にかかりきりでした。

宿からの出先で昼飯を食べていると、案外近くで列車の警笛の音が聞こえたので、

線路から離れているようで、案外そうでもないのだなと思ったことを覚えています。

 夜になると、宿の夕飯に舌鼓を打ち、温泉にゆっくりつかってから、

軽い寝酒と気心の知れた仲間との会話ですっかりくつろぎましたが

何と言っても仕事で来ているので、ほどほどに切り上げ、あとはそれぞれの部屋で

休むなり、翌日の下調べなどして過ごしました。

 明日は帰宅と言う次の日の夜も、前日同様11時には部屋にいましたが、

適度な酔いのせいか少しうとうとしていると、遠くの方から電車の警笛が

聞こえてきました。

自分の祖父の家が線路の近くにあったこともあり、子供のころを思い出しながら

夜中でも貨物列車は働くなぁとぼんやり考え、開けた窓から入ってくる

キンモクセイの香りを深呼吸して仕事を続けました。

翌朝、3人で朝飯を食べているときに

「遠くで聞こえる電車の警笛は風情があるなぁ。

 この季節だから余計にそう感じるのかもしれないけど、なんかこう

 郷愁を誘うっていうの?しんみりするよなぁ」

と、ひとりがすっかりくつろいだ顔で言いました。

昨夜のことを思い出して

「そうだねぇ。

 昨夜の警笛は山を走る電車らしく谷あいに音が響くようで、

 街で聞くのとは違ったいい感じだったね」

自分ものんきに同調すると、鉄道マニアが少しこわばった顔で

「君らも聞いたんだ。 そうかオレだけじゃなかったんだ」と、言います。

「夜陰から遠くに聞こえる電車の警笛ってなんかいいよね。」

重ねていう言葉に、鉄道マニアは真剣な顔で応えました。

「君たち、おかしいと思わなかったのか?

 まず、ここの鉄道線は単線で、しかもこの町が終点なんだよ?

 貨物電車ですら深夜には動いてるはずがないんだよ。

 それにさっきから警笛って言ってるけど、あれは汽笛だった。

 オレは半分眠ってたもんだから、最初の長めの音でSLが駅に入るんだなと

 思って、その後短く2回鳴ったから駅構内で連結作業してるなとうっかり思ったよ。

 蒸気機関車はそんな風に汽笛で会話するからな。

 SL?って改めて気が付いて、布団の中で震えあがっちゃったぜ?

 だって、とっくの昔にここの線を走っちゃいないからな」

 確かに、昨夜聞いた音は電車のたてる甲高いピーーという音ではなかった。

しかしよくある表現のポーーでもなく「ヴォーー」という感じの低い音だったが‥。

「そ、そのSLは終点の駅で何が乗降して、何と連結して、どこに行ったか

 聞いてもイイかなぁ?」

「聞くな。 どれだけ鉄道マニア歴が長いと言っても知りたくないことはある」

帰りには始発になるその駅で、自分たちはなんとなく黙ったまま

曇り空の下、のどかな町から秋の山に伸びてゆく線路を眺めていました。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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