これは大学二年の時に友人に相談された話である。
彼は大学入学と同時に一人暮らしを始めていた。
お金にそれほど余裕がなく、借りたのは築四十年ほどの古いアパートだった。
しかし生活になんら支障はなかったらしく、この話を聞いた時期まで彼からなにか相談を受けたことはなかった。
彼が言うには、数か月前から郵便受けに、前の住民が頼んだらしい荷物の不在票が入るようになったのだという。
決まって宛名はナカシマで、差出人はヨシダ。
荷物は枕や時計など様々で、最初は面倒で無視していたのだが、
ある時二日連続で入れられていた時に電話しようと思ったそうだ。
ドライバー直通の電話番号は手書きで、どれも一桁足りないようで繋がらず、
運送会社へ電話した際には受付番号で引っ掛からなかったのかあちらではどうにもできないと言われてしまったらしい。
結局、「ナカシマ」宛ての荷物を自分の住所に届けないように言って電話を切ったそうだ。
しかし、次の土曜日。
夜に部屋で晩御飯を食べている途中、玄関口でガコンという音が聞こえたのでポストを見てみると、また不在票が入っていたそうだ。
宛名はナカシマで差出人はヨシダ。荷物は線香。
またか、と運送会社に連絡しようとダイヤルしている途中でおかしいことに気づいたのだという。
普通、不在票は受け手が留守にしているときに入れられる。
しかし、それが入れられたときに彼は家にいたのだ。
外に出てインターホンを確認しても通常通り動作したのだという。
不気味に思った彼はその不在票を捨てた。
また何日かして、彼が大学から帰るとポストに大量の不在票が入っていたそうだ。
不在票には配達された時間が書かれているのだが、それによるとどうやら
一時間前から彼が家に着く一分前まで一分ごとに一枚づつ入れられていたことになるらしい。
荷物は全て線香だったそうだ。
ただごとではないと思った友人は内側からガムテープでポストの口を塞いだ。
その日の深夜。
彼はガンガンガンと部屋のドアが乱暴に叩かれる音で目覚めた。
電気をつけ、恐る恐る近づいて誰だと尋ねても音は鳴りやまず、怯えた彼はそのまま警察に電話したそうだ。
警察に電話した時には「事件ですか? 事故ですか?」と聞かれるのが普通らしいのだが、
この時最初に聞かれたのは「あなたの名前はなんですか?」だったらしい。
それでなにも答えずに電話を切った時には音が鳴りやんでおり、
ドアを見るとポストに貼ったガムテープがはがれてポストに不在票が入っていたそうだ。
ドアチェーンを閉めながら不在票を手に取ると、
宛名が彼の名前、差出人がヨシダで、荷物がナカシマとなっていたそうだ。
彼が相談を持ち掛けてきたのがその翌日であったそうだ。
彼はその不在票を私に見せてくれた。
いつも欠けていたらしいドライバー直通の電話番号はちゃんと書かれており、荷物以外は何の変哲もない不在票に見えた。
しかし、なんとなくそれを裏返したとき、それに気づいていなかった友人と私はぎょっとした。
裏側に『配達済』とべたべたの赤いインクで大きく書かれていた。
私は友人に引っ越しを勧めた。