狩猟解体

オレはこの地でもうずいぶん長い間ハンターをしている。
最近ではこの地も過疎化が進んできているせいか、イノシシが里まで降りてくることが増え、 農家の依頼もあってイノシシ狩りをすることが多くなった。
イノシシ狩りはなかなか骨が折れる。
なんせ相手は巨体だし、捕まえた後の解体も一苦労で、聞いた話では地域によっては 捕まえたイノシシを解体せずに、そのまま土に埋めてしまうところもあるという。
いやはや、もったいない事この上ないが、今やこの業界はほとんどが老人ばかり。
致し方ない面はある。 その点ではオレらはまだ恵まれている。
一緒に山に入る仲間もいるし、ウチにはイノシシ解体のための設備もある。

実は今、そのイノシシの解体の真っ最中である。
ドラム缶を改良して作った大鍋に70度ほどの湯を沸かし、そこにイノシシを漬ける。
こうすることで、硬い毛がこそぎ取りやすくなる。
ついでにびっしりとまとわりついているマダニも殺せる。
最近のマダニは死に至る伝染病を持っていることもあって要注意だ。
細かい剛毛はバーナーの火を浴びせて焼く。
焼いたら一通りタワシでこすって水洗いしてやる。
こうなるともうイノシシというより豚のような外見で、肌の色なんて人間と大差ない。
そのあと解体していくのだが、オレはカッターを使って解体する。
脂がすごいので 刃がすぐダメになってしまうのと、最初の頃は高いナイフをカッコよく使っていたのだが、 とにかくナイフは山で良く無くしてしまうことから、もう解体用ナイフにお金をかけるのをやめたのだ。
まぁこれは「ハンターあるある」だ。
さて、イノシシの頭を切り落とし、お腹を割き、胸骨を取って内臓を抜き取る。
かなりの血が流れる。心臓とレバーは刺身でもいける新鮮さだ。
真ん中から割って背骨を取れば、あとは「お肉」にするだけだ。

ちょうどその時、一台のピックアップトラックがやってきた。
ハンター仲間のAだ。
「なんだアイツ、今頃来やがって、遅いっつーの。 解体もほとんど終わりだぞ。もっと早く来て手伝えっつーの」
Aのやつがのんきに挨拶してきた。
「オイーッス!イノシシ捕まえたの持ってきてやったぞ」
オレはあきれて応えてやった。
「またイノシシかよ、獲れすぎだろハハハ」
「なんだ、解体やってんのかい?」とノンキにのぞき込んできたAが、次の瞬間、大声で悲鳴を上げた。
その場にへたり込んでまるで腰が抜けたかのようになっている。
驚いたのは俺の方だ。何をいまさら解体現場を見てビビってんだコイツは・・・
Aが震えて叫ぶ。
「お、お、おまえ!なんで、なんで人間解体してんだよぉぉぉぉ!」
「はぁああ?」 オレはAが何を言ってるのかわからなかったが、今しがたまで解体していたイノシシを振り返って眺めてみた・・・。
そこにはイノシシの頭ではなく、オレの妻の頭が転がっていた。

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