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双子坂

これは某県K市E町に住むM子さんが、高校三年生の夏に体験したお話。
以下、M子さんの語り。

その日、夏の蒸し暑い夜に眠気を遮られた私は、深夜、親の許しを貰ってコンビニへと自転車で出掛けました。
アイスや飲み物を購入した私は、普段通りなら来た道を引き返すのですが、ふと見たコンビニの先に長い下り坂がある事に気が付き、自転車を押しながら坂を覗いて見る事にしました。
何度か通り過ぎた事はあるのですが、結構な勾配をした坂道。
脇道には古めかしい石版に、〔双子坂〕と書かれています。
「良い眺めだなぁ……」
この町は海に面した山間の斜面にあり、海側にある工場地帯の夜景が、月夜に照らされた海面に良く映えるのです。
この坂、下っても帰れそうだな……。
夜景を見ながら坂道を下って行くと気持ち良さそうと思い立った私は、そのまま自転車に乗り坂道を下る事にしました。
「風が気持ちいい……」
蒸し暑い夜が一変し、全身を涼やかな風が包み込んできます。
ペダルを漕ぐ事もなく凄い勢いで突き進む自転車。
最初は風を切る感覚が気持ちいいと思っていましたが、段々と勢いを増していくスピードに少し怖さを感じた私は、思わずブレーキに手を掛けました。
しかし、
「嘘……!?」
ブレーキが反応しません。
慌てて何度もブレーキを掛けますがやはり反応しません。
足で止めようにもビニールサンダルのため少しでも路面に触れると弾かれてしまいます。
下った先はT字の別れ道になっています。
どうしよう……! そう思った時でした。
突如背後から何かが迫って来たかと思うと、スっと私の横にスライドしてきたのです。
僅かな月明かりや街灯に照らされたその何かは、女性が乗った自転車でした。
えっ?
ですが次の瞬間、
─ブルルルル。
前方から車の音が聴こえできたんです。
横道から車のライトが漏れ見えました。
私は一瞬でパニックになり、気が付くと蛇行する様に自転車を走らせていました。
が、突然私に迫る様にして、先程の自転車が接近してきたのです。
そして何故か、
「えっ?何で!?」
ブレーキが反応し、ふらついていた車体が正常に持ち直したのです。
ですがスピードは弱まっても自転車は中々止まりません、車は今にも目の前に差し掛かっています。
もうどうしようもないと半ば諦めかけた時でした。
真横を併走していた自転車が突然、一気に私を追い越したのです。
「えっ……!な、何で……!?」
女性は追い越し際に此方に振り返り、何故か笑っていました。
そしてそのまま道路に飛び出し、
─キキキッー!!
つんざくような車のブレーキ音が夜空に響き渡り、続いて私の自転車も道路に飛び出した所でようやく止まってくれました。
呆然としながら横を向くと、軽トラの車内から驚愕の表情を浮かべたおじさんと目が合いました。
照りつけるライトの光に顔をしかめていると、
─ガチャッ。
「だ、だだ、大丈夫かお嬢ちゃん!?」
車から降りてきたおじさんが慌てて私に駆け寄ってそう言いました。
「だ、大丈夫です……」
「そ、そうか良かった……あっ、先に飛び出してきた、ああ、あんたに良く似た子は??」
そう……先程私より先に飛び出した女性が、どこを見渡しても見当たりません。
それどころか自転車さえ見当たりませんでした。
おじさんも私も怪訝そうに顔を見合わせ、ただただ呆然とするばかりでした。

以上が、私が体験したお話です。
ですが……実はあの時、私はおじさんに伝えていない事が一つあるんです。
あの時、私を追い越した際に、此方を振り返った女性の顔……あれは間違いなく……間違いなく私の顔だったんです。
服も、自転車も、思い返せば私と瓜二つだったんです。
後に、これは噂話で聞いた話なのですが、大昔、仲の良い双子の姉妹が、ここで行方不明になったらしく、二人を偲んだ街の人達が、この坂を双子坂と呼ぶ様になったとか……。
ちなみに私は一人っ子ですけどね、以上です。
<終>

朗読: 朗読やちか
朗読: 怪談朗読と午前二時

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