何もないところ

 私が小学5年生の頃に体験した不思議なお話をさせていただこうかと思います。
 信じられない部分もあるかもしれませんが、本当に起きたんです。
 はじめに言っておきますと、私が体験した場所は別に曰く付きだったりだとか、何か逸話だとかが残っているわけじゃありません。
 周囲に寺社仏閣とか心霊スポットもないですし、
 祖父母にも聞きましたがそういう不気味な話は聞いたことがないと言われました。
 それを踏まえた上で聞いて下さい。

 あれは夏休みのことでした。
 私にはいつも遊んでいる同い年の友達のAさんがいて、その日は川で待ち合わせをしていました。
 大抵は虫捕りや水遊びをしたりして過ごすのですが、夏休みで連日遊べることもあり、どうせなら秘密基地を作ろうという話になったわけです。
 でもここは他の人たちが来ないわけではないので作れる場所を考えていたのですが、Aさんが良い場所があると言いました。
 ここは藪で囲まれているようになっているのですが、Aさんは以前、この川の真上に掛かっている橋の上から、もう一つ開けた場所を見つけたことがあるらしいのです。
 そして二人で橋の上から見下ろしてみると確かにそのスペースはありました。
 ですがそこに行くとなると無理やり藪をかき分けて進む事になるので、草木で切ったり転けたりする可能性もあるから危ないし行けないね、と。
 ならば藪を進むのではなく、川を下ることにしました。
 別に深くても膝程度までしかありませんでしたし、流れもキツくないので大丈夫だろうともう一度降り、見た通りに二人で向かいました。
 じゃぶじゃぶと濡れながら結構歩きまして、無事に辿り着くことができました。
 そうして私たちは木やら石やらを運び込み、1週間ほど通い詰めた頃、子供にしては割と立派ではないだろうかという秘密基地が出来あがり、凄く喜んだのを覚えています。
 それからというもの、そこにお菓子やら飲み物やらを持ち込んだりで、楽しい夏休みを過ごしていました。

 ある日の夕方、遊び疲れて2人で秘密基地でぼーっとしていると結構強めの風が吹きました。
 気持ち良い程度なら良かったのですが、砂埃とかも巻き上げていたようで、目を暫く目を開けられないでいると、ふと川の方に変な気配を感じて、合わせたわけでもなく2人同時にある方向へと目を向けていました。
 そこには丸太ほどの太さがあり、視界には収めきれないほどの長さがある白蛇がこちらに顔を向けていました。
 チロチロとしている舌や目さえも全てが真っ白でした。
 後で調べたら、血管とかそういう問題で目や舌が白くなる事はあり得ないとのことなので、正確にいうなら白蛇ではなかったんだと思います。
 暫く固まっていた私たちでしたが、流石にこのままでは行けないと思い、恐怖のあまり、蛇だ! と叫びながら、気にせず藪に突っ込んで必死に掻き分けながら逃げました。
 どれくらい走ったのか藪から抜け出した時には日は半分ほど沈んでいて、暗いし痛いしAさんは出てこないしで、私はほとんど泣きかけでした。
 暫く立ち尽くしているとAさんも出てきて2人して大泣きしました。
 そのあとは帰ってお母さんに怒られ、何があったのかと聞かれましたが、何故か私は転んだだけだと嘘をついていました。

 そして次の日、Aさんとは特に言葉を交わす事がないまま、秘密基地へと向かいましたが、異変は何もありませんでした。
 あんなに大きい蛇がいたのなら、引きずった跡はないのかとよく周りを見渡しましたが、それすらもありません。
 こういう件があったからか私とAさんは少々気まずくなってしまったというか、遊ぶ回数がめっきり減り、また仲良くなれた頃には10年ほど経っており、川で遊ぶような年ではなくなっていました。
 そして久しぶりに2人きりで食べに行こうかと居酒屋に行った時の話です。
 私とAさんは思い出話に花を咲かせて、会話を楽しんでいました。
 そういえば、と私は蛇の件を思い出したんです。
「そういえばあの時は凄いものみたねー」
「あの時は気まずくなって無駄な時間過ごしたよね」 とかそんな感じで話をしていました。
「それにしても目から舌も体も真っ白だったし本当に蛇だったのかな」と私が話を振ると「あ、そうそう、そういえば気になってることがあってさ」とAさんは言いました。
 私がどうかしたのかと聞き返すと、Aさんは何故あの時、蛇だと言って逃げ出したのかと聞いてきました。
 え? と私は返しました。 そしてAさんは言ったんです。
「あれどうみても子供じゃなかった?」って。
 私とAさんは目を合わせて、お互いが何を言っているのか分からないという顔になっていました。
「いやいやいや、どう見たって蛇だよ。丸太ぐらい太くて、もう映画みたいな大きさだったよ」と私が言うとAさんは、「いやいやいや、どう見ても子供だよ。
全身包帯ぐるぐる巻きでさ、めちゃくちゃ不気味で怖かったじゃん」と。
 途中からお互い訳が分からなくなって、もうこの事は忘れようと無理やり話を切りました。

 次の休日、あまりにも気になった私は10年越しにあの場所へ向かうことにしたのです。
 子供の頃と同じように服が濡れるのも構わず、じゃぶじゃぶと歩きました。
 驚いたことに今もあったのです。
 石とかそういう物の配置もほとんど変わっていない状態だったから、誰も足を踏み入れてないんだなあと。それがまた嬉しくもあり、不自然でもあったというか。
 するとまた子供の頃と同じような強めの風が吹きました。
 砂埃を巻き上げ、とてもじゃないですが目を開けていられません。
 それが過ぎ去った頃、今度は振り向くまでもなく、その蛇は目の前にいたんです。
 相変わらず目とかチロチロ出してる舌も真っ白で、どう見たって包帯ぐるぐる巻きの女の子じゃありません。
 私はゆっくりと後ずさりしながら、前と同じように藪を掻き分けて戻りました。
 最後、視界から消えるまでずっとこちらを見てはいました。
 でも動くような様子は特になく、まるでその場所に縛られているような、そんな感じでした。
 あの後、橋の上から秘密基地の方を見に行きましたが、待てども待てども見えることはありません。
 なんだかそれ以来、あの白蛇のことが物凄く気にしまい、かなり離れてはいましたが、白蛇を神として祀っている神社に私は1人で足を運ぶことにしました。
 その神社を見た瞬間、何故かひどく懐かしいような感じがして、正直、ここは家よりも居心地が良かったです。
 そして私は勢いのまま、たまたま近くに立っていた神社の方に話を聞きました。
 実は2回、丸太ほど太く長い白蛇を見たことがあり、目も舌も白かったと。そんな事ってあるんですかと。私は質問したんです。
 でもその方は特に表情を変える事なく、夢ならまだありえるかもしれませんが、そんな話は聞いたことがないと言われてしまいました。
 なので私は駄目元でついでにAさんが見たという、包帯をぐるぐる巻きにした女の子の話もしたのですが、その時少しだけ表情が変わりました。
 どんなところだったと聞かれたので、冒頭通り、周りには何も聞いたことがないし、そういう建物もないと言うことを説明し切ると、その方は一言だけ残して戻って行きました。
「そういう何もないところは自分のが表に出やすいもんだ」と。
 どういう意味なのかいまいち分かりませんが、文面だけ受け取るに、自分に憑いている何かが出やすいとでもいうのでしょうか。
 だとすればAが見たという包帯ぐるぐる巻きの女の子は一体……?
 謎が残るばかりでしたが、私には白蛇が憑いているという結論で終わらせることにしました。

 別に特に害もありませんし、あまり触れない方が良いのかなと思ったからです。
 なのでもうあれからあそこには行っていませんが、逆に何もないところでもそういう曰く付きの場所になることもあるのかなと、そう思いました。

 オチがなくてすみませんが、以上になります。ありがとうございました。

朗読: 榊原夢の牢毒ちゃんねる

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