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消えた飴

今から35年以上前にあった出来事なので、私の記憶に残っている印象的な事しかお話できませんが、
ある神社での、ささやかで不思議な体験を思い出しました。

私には、今でも仲の良い姉がおり、当時もよく一緒に遊んでもらっていました。
テレビゲームなどは無かった家なので、遊びと言えば私たちは外で泥んこになって遊ぶような、おてんばな姉妹でした。
実家近くにある、古くて大きめの神社。
隣に町内の公民館も併設されており、広めのグラウンドはこの地区のイベント事などによく利用されていて、
神聖でありながらも公園感覚で人々に親しまれています。
当時まだ6、7歳だった私と、三つ年上の姉は、その神社でよく遊んだ記憶があります。
古めかしいお社の周りには涼しげな松林や池、ブランコがあり、
夏休みには家族で虫取りや手持ち花火などして楽みます。
岩でゴツゴツ囲ってある陽当たりの良い一角があり、その場所でおままごと遊びなんてしてると、最高に楽しいのです。

さて、その神社は、ある時期からアルミサッシで足場が組まれ、
古いお社を風雪から守る為に、ガラスの防護壁でぐるりと覆われました。
子供からすれば、見れば見るほどワクワクする遊び場としか思えない光景です。
ガラス1枚隔てて見える荘厳な神社は、
私にとっては「古いものと新しいものが合体した!」ぐらいに、おもしろいものに感じました。
設置工事の期間ずっと立ち入り禁止だったので、その反動もあり、私たちはもう遊びたくてウズウズしていたと思います。

寒い時期だったけど陽射しが暖かくて、気持ちの良い日でした。
その日は姉と、姉のおてんば友達数人に、私も交ぜてもらって、今思えば大人から絶対怒られるけど、
そのガラス壁の内側もOKの鬼ごっこをしよう!ということになりました。
子供って全く悪気なくこういう事を考えて、全力で楽しもうとしますよね…
鬼を決めようと集まった時に、姉の友達の1人、美人のAちゃんが、
得意気に小さなショルダーバッグの中から飴の袋を取り出して、みんなに配っていました。
今でも大好きな優しい甘さの「花のくちづけ」という飴でした。
Aちゃんは私にもくれて、みんな同じように飴の形に膨らませたほっぺをつつき合って「おいしいね」と笑ったことを覚えています。
お社とガラス壁の間は、大人1人が通れるぐらいの隙間だったらしいので、子供ならラクに駆け回れます。
鬼ごっこの鬼役が誰だったかは覚えていませんが、姉の友達2人ほどが、その隙間の柱や足場を駆け回って、
ガラス越しに鬼にベロベロバーなんてしながら、歓声を上げて楽しく鬼ごっこをしていました。
今思えば、よくケガしなかったな…
私はまだ小さかったので、隙間に入るのが怖くて、入らずに境内を走ってキャッキャと逃げ回っていました。
鬼役が遠くにいる間、内側に入ってひと休みしていたAちゃんは、ガラス越しの暖かい陽射しを浴びながら、
美人なのにいたずらっぽい笑顔で鬼が来るのを待ってたシーンが、
今でもカラー写真のように鮮やかに美しく、私の記憶に残っています。

どれぐらいの時間そうやって遊んでいたのか、そろそろ帰ろう、ということになりました。
日が短い時期なので、あと小一時間もすれば辺りは薄暗くなってきます。
楽しくて楽しくて、心地よい疲れもあり、もう頭の中では夕飯何かなぁなんて事を考えていると、
Aちゃんがショルダーバッグを覗き込んで、急に真顔になりこう言いました。
「あれっ、飴がない…」
みんな口々に 「走り回って落としたんじゃないの?」
「どこかに置き忘れたんじゃないの?」 と聞いてみたけど、
Aちゃんは、最初みんなに配って、残りはまた後で配ろうと思っていたから、
ちゃんとバッグに仕舞っていたし、鬼ごっこの間はバッグからは出してない。
そもそもバッグのファスナーはずっと閉じてたから、飛び出ることは絶対にない、と言うのです。
飴の袋だけが、忽然と消えたのです。
念の為みんなで暗くなるまであちこち探してみましたが、飴の1粒すら落ちていませんでした。
まぁ、たかが飴だし。まぁいいか。という結論でAちゃんが納得しかけた時、薄暗い中で姉が言いました。
「神社を駆けずり回って荒らしちゃったたから神様怒って取り上げたんかなぁ…」
その言葉にみんなハッとし、私も急に怖くなりました。
「今回は飴で済んだけど、これ以上こんな遊びをしたら、次は何を取られるかわからんよ…」
と誰かが震える声で言い、みんな逃げるように解散となりました。
その夜は眠れたかどうか忘れましたが、私は布団の中で
「かみさまってほんとうにいるんだ」
「おこらせちゃってごめんなさい」
「もうあんなことしません」
「あめちゃんかえしてあげてください」
「いのちまでとらないでください」
と泣きそうになりながら祈ったのをなんとなく覚えています。

それからはみんなもAちゃんも、何事もなく平穏でしたが、
あの飴事件以来、私たちはあの神社では遊ばなくなりました。
飴が出てきたという話も聞いていません。
もしかしたら普通にどこかに落ちていたのかも知れませんが、分かりません。
たかが飴が消えただけの些細な話ですが、楽しいはずの思い出が一転、
幼い胸には不思議で、少し怖い思い出になりました。
あれから月日が経ち、神様も覚えていらっしゃるか分かりませんが、
今度帰省する時は改めてきちんと御参りしようと思います。

朗読: 榊原夢の牢毒ちゃんねる

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