224 views

真夜中のウェーディング

梅雨も明け、海水浴場などが人で賑わいを魅せる季節の話です。

職場の同僚などは仕事を終えると、みんなで呑みに行ったり帰宅する中、
私はというと5年程前に始めた、”ウェーディング”という、海や川などに腰ほどまで浸かり
普段岸辺から狙えないような魚を疑似餌などで狙うルアーフィシングにどっぷりハマっている時期がありました。
その日は仕事が遅くなり、釣りに行くかどうか迷いましたが、
大潮の晩ということもあり、職場からほど近い海水浴場近くの河口に入ることにしました。
釣り場に車を停めて、月明かりに照らされた釣り場を見ると、大潮の干潮ということもあり、
海は干潟状態、気持ち程度の川の水が海に流れこんでいました。
釣り場には私1人、さっそくウェーダーと呼ばれる胴長を着てベッドライトを頼りに200m程干潟を海側に歩いて行きました。

余談ではありますが、干潟を歩いた先には急に深場になるブレイクと呼ばれる魚の溜まり場があり、そこが驚くほど釣れるのです。
干潮から上潮になると地形の起伏が激しい干潟は一面海の底になり、帰りの道中、
安全なルートが分からなくなる事が度々ある為、私はいつも細い竹を2、3本道中に刺して、目印にしていた。
釣り場に着いて釣りをしていると、初めこそアタリはありませんでしたが、
上潮が効いて海水が、足首から膝下くらいまで上がってきた時には、面白いほど魚が釣れました。
海の特性を知っている人は、上潮が入るとたちまち水が押し寄せてくる事は承知ですが、
その時は本当によく釣れて、私はもっと大きいのが釣りたくて夢中になっていました。

海水が腰下あたりまで来ると、少し波が出てきてそろそろ下がらないと、と思いゆっくり海を歩いていると、
ふと海水浴場の方から若い女性達が何やら談笑している声が聞こえました。
海水浴場からはそんなに釣り場から離れてなく、たびたび若者達が夜中に花火やらキャンプやら、騒いでいるので特に気にしませんでしたが、
あまりにも楽しそうにゲラゲラ笑っていて、
「だからよねえ〜」「マジウケるわ〜」と聞こえているので、
いったいなんの話をしているのだと、少し気になってしまいました。

聞き耳を立てながら海側から1本目の目印まで下がり釣りをしていると、
「おじさーん!釣れるー?」と1人の女の子が海水浴場から話しかけてきた。
私は聞こえないフリをした、急に話しかけられて驚いたっていうのもあったし、もし自分の事じゃなかったら恥ずかしいと思ったからだ。
すかさず「そんな所で釣りしたら溺れちゃうよー!」とゲラゲラ笑われたので少しムッとしたが、無視し続けた、その瞬間、
「ねぇ聞こえてるでしょ?」と右耳に吐息があたるくらいに後頭部から囁かれた。
一気に血の気が引き全身に鳥肌が立った。
胸からこみ上げてくるこの感覚はまさに[心臓が飛び出そう]だった。
先程までゲラゲラ笑っていた若い女性達は嘘のように静まり返り、こちらを数人で見ている。
みていると言っても、夜なので人型の影が一列に並んでいるだけなのだが。

いても立ってもいられなくなり、構わず振り返り岸辺まで急いだ。
しかし、海水はすでに腰上まで来ていてなかなか思うように歩けない、
ふと女性達を見ると、全員が私の方に向かって指を指しているシルエットが見えました。
その瞬間足に何かニュルッとした感触が当たった、もうわけがわからなかった私は岸まで叫び、踠きながら走れないけど走りました。
途中ベッドライトの明かりに照らされた海中に、白い魚のような、人のようなものが私の周りをグルグルと泳いでいた。
この特性を聞いて人魚では?と想像した方もおられるだろうが、あれは全く違う者でした。
白い大きなコイのような魚に長い髪と大きな目と口が真上について泳いでいるのでした。腰が抜けそうになった。

やっと浅瀬に着いて浜辺に飛び込むと大きな魚は右に左に泳ぎながら頭についた大きな口でゲラゲラ笑っていた。
もうあれがなんだったのか知ろうと思わないし、知りたくもない。
あれ以来、ウェーディングも夜釣りもやめました。
みなさんも水辺のレジャーにはくれぐれもご注意下さい。

 COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

龍を見たおはなし3 「妙な形の龍あらわる」

さしのばした

「〇」にまつわる話

龍を見たおはなし5 番外編「保谷の霊能者と2500年前の記憶 」の巻

みんなはじぶん

不思議な夜〜2日後