見えた? 見えない?

これは幼稚園の頃の話。

幼稚園を帰る前に、園の友人たちとかくれんぼしていました。
2階建の園の中を縦横無尽に隠れて、走り回り、大騒ぎしていました。
鬼の子に鈴をつけて始めたり、階を限定して隠れたり、色々と遊んでいたので時間はあっという間に過ぎていきました。

園の先生が私たちに声をかけてきました。
「はーい、みんな。そろそろお家に帰る時間だよ〜。遊びはまた明日ー」
手をパンパン打って、みんなを集めていきます。
たまたま2階にみんないたらしく、先生の周りに集まっていきます。
ワイワイと先生の後ろについて階段を下り始めました。
ふと視線を感じて何気なく上を見上げた私は
「あ…おっきな蜘蛛がいる‼︎」 指差しながら叫んでいました。
みんなが次々と見上げていきます。
「うわっ、おっきい⁉︎」
「なに、アレ怖い‼︎」
「はぁ? 何がいるの?」
「何にもいないじゃん!」
一気に騒ぎが起こり、階段で立ち止まる私たち。
先生が走って来て「どうしたの?」と聞かれたので、階段の踊り場の天井を指差してみんなが言いました。
「せんせー、あそこにおっきな蜘蛛いる‼︎」
「天井いっぱいのおっきな蜘蛛‼︎」
「何にもいないのー」
「変なこというー」
先生はみんなの言葉を聞いて、私たちの指差している階段の踊り場の天井を見上げました。
小さく「…ひっ!」という声をあげ、身体をビクッとさせて動きを少しだけ止めました。
「せんせー、いるよねー?」
「せんせー!」
「いないよー?」
「怖いこと言うのキラーイ」
みんなが先生を揺すって、めいめいに声をかけています。
そんな中で先生は 「なんにもいませーん!ほら、お家でご飯が待ってるよ〜。帰りましょー」
殊更明るい声でみんなに呼びかけ、私たちを連れて歩き出してしまいます。
まだ言っている私たちをやや強引に連れていこうとしています。

そんな中、1人の子が先生を見ながらボソっと言いました。
「先生、ウソついてる…」
「…えっ…」
その子を振り返って顔をマジマジ見ると、ニヤと笑って言い切りました。
「だって、私も見たから。あのおっきな蜘蛛。土蜘蛛か、違う。でも、悪いモノじゃないよ。守り神みたいなもんだよ」
難しい単語があって意味はわからなかったけど、悪いモノではない。神様だと。
「なんでそう思うの?」
「あたしは知ってるから」
その子は先生を遠くから見てニヤリと嗤うと、私にこう言いました。
「◯◯(私)ちゃん、これからも色々視るよ。頑張ってね」
そういうと、帰っていく他の子に混ざって走って行ってしまいました。
私はポカーンとしていて、先生に促されて帰りました。

翌日も普通に園で遊んでいたのですが、1つ気がついた事がありました。
「あの話」をしてくれた子が居ないんです。
名前もどの組だったかも、昨日話をしているのに顔もぼんやりしています。
靄がかかったみたいに、思い出せないんです。
周りに聞いても知らないの一点張り。
あの巨大な蜘蛛を見たのは幼稚園のこの時だけで、他に見た事はありません。
幼稚園の隣に『△△の森(杜)』という神社のある小山があり、
よく遊んだり、幼稚園のお散歩で行ったりしていますが、そこには神様と河童がいる池があると言われています。
そこの神様が蜘蛛の形をしているかは不明ですが、あの蜘蛛が関係している気がしてなりません。
あの子と巨大な蜘蛛、とても気なる存在です。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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