あの子は一体

 これはわたしの友達Sの体験談です。

 Sが小学4年生の頃、クラブ活動の一環でダンスクラブに所属していました。
 ダンスクラブの活動場所は、体育館によくある扉がついた大きな鏡の前です。
 ある日、Sが他のメンバーと一緒にダンスの練習をしていた時、Sはなんとなく違和感を覚えました。
 鏡越しに、白いワンピースを着た女の子が立っているのが見えたのです。
 その女の子に見覚えがなかったSは『あんな子いたっけ』と思いましたが、クラブ活動をサボりがちだったこともあり、その時は『同じ学校の誰か』程度にしか考えませんでした。

 それから数日後の雨が降る放課後。
 Sは折りたたみ傘を教室に忘れてしまったのに気がつき、玄関から教室に引き返しました。
 廊下にはクラスのみんなで描いた絵が飾られていたのですが、その絵をじーっと見つめる女の子がいることに気が付きました。
 そしてSはハッと息をのんだそうです。
 教室の前に佇む女の子は先日見たは白いワンピースを着た女の子でした。
 呆然と立ち尽くすSに気がついたのか、身体が絵の方からこちらに向きをズズズッと変える姿は、生きている人間の振り向き方ではなかったといいます。
 Sは悲鳴をあげながら家に急いで帰りました。

 後日、霊感があるというAちゃんにこの話を聴いてもらおうと思い、自宅にお邪魔することにしました。
 いざ話を始めようとした途端、Aちゃんは『S、右肩の方に白い女の子がいるよ』と言われた途端、なぜか意識が急に遠のきそのまま意識を失ったといいます。
 目が覚めると布団に寝かされており、『S!大丈夫!?』と心配そうに話すAちゃんが私を覗き込んでいました。
 何が起きたのかさっぱりわかりませんでしたが、どうやら意識を失った後、なかなか目を覚さない私をAちゃんのお母さんが心配して、Sのお母さんに連絡、迎えにくるまで寝かせてくれているようでした。
 そのままわたしは家に帰宅。
 とくに病気などによるものではなく、Sのお母さんからは『遊びすぎたんでしょう』と笑われて終わりました。
 ただ、Sにはその場にいた人やお母さんにはまだ言えていないことがあるんです。
 意識が遠のく際、見えたのは確かにSが見た女の子でした。
 ただ、違うのは『Sを見てにんまりと笑いながら、まるでこちらにおいでと手招きする女の子』ということ、だったそうです。

 その日以来その女の子を再び見ることはなかったそうですが、連れて帰ってしまったのではないかという恐怖が、Sの頭の中には残っているようです。

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