運ばれる

これは私の通っていた小学校で本当にあったお話です。

私の通っていた小学校には、給食を運ぶために使われていた小型のエレベーターがあります。
高学年の子どもたちが階段を使って給食を運ぶのは大変だろうという学校側の配慮から作られたものです。
ですが、そのエレベーターで事件が起こりました。
ある男子生徒がふざけてエレベーターの中に入ったまま閉じ込められてしまい、
発見が遅れて窒息、亡くなってしまったのです。

その後、エレベーター付近で奇妙な体験をする生徒が続出しました。
『亡くなった男子生徒をエレベーターの中に見た』というのです。
面白がって給食時間外でも見に行こうとする生徒が現れ、
先生たちは『面白半分で見に行くもんじゃない』と叱責、それ以降見に行く生徒は徐々に減っていきました。
そんななか、男子生徒Aが『幽霊なんているわけないだろ、俺が見に行って証明してやる!』と言い出しました。
周りの生徒たちは心配しましたが、頑なに『一人で行く』と言い張り、誰も連れていこうとはしませんでした。

放課後、部活がある生徒以外が帰路に着く頃、Aもエレベーターの前に到着しました。
使われなくなってからそれほど年月が経っていないように思っていましたが、
保存状態が悪いのか既に錆び始めている箇所もみられ、小学生の恐怖心を煽るにはそれだけで十分でした。
来たものの、エレベーターを作動させるわけにもいかず、どうしようかと立ち往生していると、
いきなりエレベーターが『ガコン』と動き出しました。
エレベーターの表示を見ると、どうやら下から上にエレベーターが『ブヴヴン』と鈍い音を立てながら上がっているようでした。
Aは恐ろしくなり、『今すぐここから逃げなければ』という考えが頭をよぎりましたが、足がすくんでしまい言うことを聞きません。
ついにエレベーターがAのいる二階まで到着し、エレベーターが『ギギギ …』とゆっくり開いていきました。
恐怖で今にも泣き出しそうでしたが、肝心のエレベーターの中は『空』。
何も入っていませんでした。

『もしかして先生か、俺を怖がらせようとしたやつが動かしたのか』と半ば怒りのような気持ちを抱きながら、
エレベーターの閉じるボタンを押そうとしたその時。
あることに気がついてしまいました。
エレベーターの中に小さな手形のようなものが見えたのです。
小学生くらいの手の大きさで、赤黒く、まるで血のような色をしていました。
それが『ペタッ』『ペタッ』『ペタペタペタペタ』と音を立てながらエレベーター内に増えていくのです。
Aは『う、うわあああ』と叫びながら、急いで閉じるボタンを押しました。
ゆっくり閉まっていく間も手形はどんどん増えていきます。
『閉じろ閉じろ閉じろ』とパニック状態でボタンを押し続けます。
しかし、Aはボタンを押しながらもエレベーター内を見続けていたことを後悔しました。
扉と壁の隙間、見えるはずのない二つの目がAをジーッと凝視していたのです。
その目は悲しむでも怒るでもなく、ただ目を見開いてAのほうを見つめていました。
手形に気がつかずエレベーターの中にふざけて入っていたら、
そう考えるだけでゾッとすると、次の日Aは青ざめた顔で話を終えました。

Aが正直者だということは周りも知っていたので、そのエレベーターには益々人が寄り付かなくなりました。
実は、今でもそのエレベーターは使われないまま保存されているんです。
いったい次は何が運ばれてくるんでしょうか。
エレベーターの扉が開いた時、彼は呼ばれていたのかもしれませんね。

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