祟り

 お宮掃除に行った。夏祭りの前の恒例行事である。

 拝殿や参道の掃除はとっくに終了したが、ご神体のの祀られている本殿の掃除が、遅れているようだ。このままだとなかなか家に帰れない。
 今日はG1の優勝戦が有る日だ。
「ぁぁもう発走の時間が近づいている」
「さっさと済ませろよ」なんて思ったが、声に出して言うわけにもいかぬ。
「どれどれ」
 僕は拝殿の横から細い山道を登り本殿にたどり着いた。そこには男たち3人が、本殿の周りや中の土間を掃除している。思ったより、今年は落ち葉や木の枝が多く掃除に手間取っているようだ。
 中の様子を伺うと、木で作った小さな階段があり、昇りきったところに観音開きの扉がある。どうやら、その中にご神体が置いてある様だ。
「せっかくここまで来たんだから、ついでにご神体も見ておこう」
 扉を開けてみると、なんと中は落ち葉だらけだ。
 落ち葉に埋もれたように、白くて長い布キレに巻かれたご神体が見える。
 ご神体の正体は……言わない……それなりの訳があるからだ。

 男たちはご神体の周りの、落ち葉やこうもりの糞などを掃除しようと、ご神体を持ってずらした。さらに、巻いてある布きれを解いて、汚れを落とし巻き直して、どうにか、掃除は完了した。
 めでたしめでたし……。

 その夜、僕が寝ていると、天井からクモがスーツと糸を伝い降りてきた。そして、いきなり僕のまぶたを刺した。
 クモにまぶたを刺されるなんて、恐らくめったに無い経験だと思う。
 その痛さと言ったら、、ほんと「突き刺すような強い痛みが、延々と続く」と言ったら解ってもらえるだろうか??
 一刺しされても、この痛さである。
 クモはさらに僕を刺そうと身構えた。そのとき、黒い物体がサッとクモに飛び付いて、僕から遠ざけてくれた。
 愛する猫、みぃチャンである。
 しかし、クモにかまれた痛さは時間と共に減るどころか、ますます痛くなってくる。
 僕は失明の危険さえ感じた。あわてて病院へ、夜中だから、まして救急車に乗ってきたわけでも無いから、ナースものんびりしたもの、医者も一時間以上待たせてから来た。
 診察しても、痛み止めを注射してくれるわけでもなし、「今時は目薬のような、麻酔なんかもあるはずだがな?」でも何にもしてくれない。
 アルコールで拭いてから、申し訳程度に痛み止めをくれたが、効くはずも無い。なんとこの激しい痛みは、きっかり24時間続いた。
「やぶ医者め」
 痛みも治まり、ふと枕元を見ると、巨大なクモが、死んでいる。胴体だけで大豆とソラマメの中間ぐらいの大きさだ。
 そしてクモからは赤い血が出ている……。
「おかしいな?クモって潰しても灰色の液体が出てくるだけなんだが……」

 その後、仕事で隣町の人と一緒に働く機会があり、ひょんなことから神社の話になった。
 さらに、ご神体の話に発展し、
「ご神体を見てはいけないよ」
「ご神体を見たら、目がつぶれるよ」と教えてくれた。

 なお、一緒にご神体を触ったり見た人は、ひとりは怪我して入院し、もう一人は、家族がが病気になって長期入院した。
 さらにもう一人は、程なくして、家族が急に亡くなった。
 神はご利益と、祟りが一身同体。一つの体。
 ぼくはそう信じている。

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