先客

高校生の頃、部活動として茶道部に所属し、活動場所は別館 …校舎とは別の建物で、
1階は食堂、2階が研修室になっていて、そこの2階を部室と控え室、倉庫等に使っていました。

そこに何回か部活動で出入りして、ある日ふと1階からふと2階に向かう階段を見た時、視界にあるモノが入ってきました。
それは、小さな女の子。
おかっぱで着物、この時代にまず見ない格好と、高校という場所での子供という存在。その両方と独特の空気。
(あぁ、『この子』は…人間じゃないんだ。でも、殺意や悪意がない…) と
『その子』を見ながら止まっていると、部員の子が声をかけてきました。
「どうしたの?虫でもいた?」
「あ〜…いや、あのさ…」
「どしたの?」
「階段のところに…」
指差して階段を示したのですが、その子は首を傾げて言います。
「何にもいないじゃん。ゴキブリや蜘蛛?」
(やっぱり見えてないんだ…)
そう確信して、その場は適当に誤魔化して帰りました。

ちなみに私の高校の茶道部は、学外の茶道の先生(当時65歳以上のご婦人で、習っていた流派、
住んでいる県で1,2を争う程の実力ある師範の方だったそうです、後で知りました)
に月2回(2週間に1回ペース)で教わっていました。
私が2年になると、元々茶道経験者という理由で部長兼会計に就任。

その先生を研修会館1階の玄関でお迎えして、2階に案内するのも部長の仕事としていたある日。
階段で『その子』が顔をひょっこり出して、私と先生を見ています。
私が動きを止め、見ていると 「あらあら、先客がいらっしゃるのね。ゆっくり見ていきなさい」
笑顔で『その子』に向かって言いました。
すると顔を引っ込めて、小さく駆け上がる足音。
先生は気にした様子もなくゆっくり階段を上って、部室に歩いて行かれます。
私も急いで後を追い、部室に入ります。
ふと先生にこう提案しました。
「先生、『あの子』にお茶とお菓子、お出ししてもよろしいでしょうか?」
「立派なお客様だから、良いですよ。ずっと、見ていたんですから」
笑顔で許可を頂いたので、その日以来、部活動の日は『その子』用に
部室の一角にお茶とお菓子を先に置いてから練習するようになりました。
他の部員や顧問の先生も不思議がっていましたが、
その先生が「私が置くよう言いましたよ」というとそれ以上は聞いてきませんでした。

それは私が卒業で部活を引退する日までずっと静かに続いていました。
いよいよ卒業で部活引退の日、その場所に行って、こう言いました。
「私が卒業したら、もうお菓子とお茶は出ないんだ。ごめんね」
微かな足音。それにそっと重ねて言いました。
「ばいばい、また会おうね」

それからはどうなったはわかりません。
数年後、学外の先生もご高齢で茶道をご引退。
顧問の先生も御病気で第1線を退いたと聞き、会えてません。
でも、そういう存在もお客様としておもてなしを出来るあの先生は今でも心に生きています。
先客に纏わる、小さなお話。

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