僕の地元には【目隠しさん】と言う怪談がある。
正式名は知らない、みんなが【ぞうさん公園】と呼んでいる公園のベンチに夜中座っていると、
突然後ろから手で目隠しをされ「だーれだ?」と問い掛けられる。
その声は聞く人によって変わって、でも絶対に知り合いの声なんだって。
そして目隠しされた人はその声の人物の名前を答えなければならない。
正解すると手は離れ、振り向くと誰もいない。
ちなみにもしも間違えると目をえぐりとられる。
目隠しさんがどんな姿をしているかは誰も知らない。
その公園で事故死した子供の霊という説と恋人にふられて自殺した女性の霊という説があった。
それは目隠ししてくる手が細く小さいかららしい。
この怪談、いくつか疑問点がある。
まず目がえぐられるなんて大事件、本当にあったなら地元で大騒ぎになる。
過去にあったとしても事故か事件として記録に残っているだろう。
しかしそんな話は聞いた事がない。
だとすれば、目がえぐられるという結末は誰によって語られたのか?
そして何故目隠しさんの声ではなく、知り合いの声として聞こえるのか?
何故試すような事をしてくるのか?
まぁ、でも、その公園は普通に住宅地にあって、昼間はよく遊びに行った。
そんなに遊具もない小さな公園。象の形の滑り台があった。
だからぞうさん公園って呼んでた。
ある日、小学校が終わって友達と公園に寄って話をしていて、目隠しさんの話になった。
「ベンチってあれだろ? 座ってみろよ」
「やだよ」
「別に夜じゃないからいいじゃん」
「じゃ、オレ座るよ?」
ふざけて友達の一人がベンチに座った。
で、僕はさらにふざけて後ろから目隠しして「だーれだ?」ってやった。
バレバレだったからさ、そいつは特に真面目に答えたりしなくて、
みんなで「はい、呪われた~」とかふざけて笑った。
で、そろそろ帰ろっかってなって、みんなで公園を出ようとした時、
公園の隅にこちらに背を向けて立つ女の人が見えた。
あれ? さっきから居たっけ? 僕は動きを止めて思わず目を凝らした。
夕暮れにはまだ早い明るい時間、その人の周りは何だか薄暗く見えた。
それはその女性が全身黒ずくめだったからかもしれない。
黒く長い髪に黒い服。今思えばあれはたぶん喪服だ。
友達も気付いたらしく「何か気味悪いな」とボソリと言って、僕らは足早に公園を後にした。
その夜、何となく一人で寝るのが怖くて、適当な理由をつけて両親の部屋で一緒に寝させてもらった。
実はあの女の人は目隠しさんかもってちょっと本気で思ってた。 眠れなかった。
両親の寝息が聞こえ始めると近くにいるとわかってても心細かった。
布団にもぐり込むようにして、ただギュッと目を閉じ続けた。
「だーれだ?」
耳元でハッキリと声がした。
同時に冷たい手が僕の顔を両手で覆った。
それは僕の声だった。
経験した事のない恐怖で僕は全身が硬直した。
怖くて怖くて恐怖が頂点に達した時、僕は「うわぁぁぁ!」って大声で叫んだ。
両親に気付いて欲しかった。
父の「どうした?」と言う寝ぼけた声と同時に手は消えた。
僕は泣きながら両親にしがみついた。
その次の日、ベンチに座った友達が目の上を怪我して学校に来たのを覚えている。
家で転んで机の角にぶつけたらしい。
まぁ、失明とかはなかったし、あくまで目の上だ。
僕はと言えばあれからは別に何もなかった。
ただ関係あるのかないのか、あの日以来、視力は悪くなり続けてる。