中古物件~お隣さん

 これは私が中学二年の時に体験した話です。

 当時の私はオカルト系が大好きでホラー映画を一人で観に行ったり、そういう系の本を買って読み漁っていましたが、霊感は全くありませんでした。
 元々、東京都に住んでいましたが、父の仕事の関係で埼玉県のとある町に引っ越しました。
 田畑が多く、随分田舎だなあと子供ながら思ったものでした。
 当時は大変貧しくて、一家で小さな平屋で暮らしていましたが、私が中学二年になった時に、親から中古の2階建て庭付き一軒家を購入した事を告げられました。
 当時は事故物件サイトなんてものは無かったし、貧乏だった我が家が何とか手に入れた一軒家でしたから、平均相場より安かった事を親は大層喜んでいました。
 庭もそこそこ広く、日当たりも抜群でしたが、周りの家が白い壁だったのに、その家はレンガ色の壁で、工場とか倉庫みたいな印象は受けました。
 それでも自分の部屋が持てた喜びは言葉に表せない位嬉しかったです。
 玄関を入ると小さな間口(まぐち)があり、そこから真っ直ぐに2階への階段があり、上がった先の両側に6畳の部屋が其々ありました。
 私は上がって右側の部屋を使う事になりました。

 異変が起きたのは引っ越して3日ぐらいでしょうか。
 両親は共働きなので夜の6時半位に帰ってきます。なので、学校から帰ると一人の時間を満喫できる楽しみがありました。
 好きな音楽を聞いたり好きな本を読んだりと、毎日がバラ色でした。
 そんなある日、学校から帰って部屋で宿題をしていると、玄関から男性の太い声で「おい!」と言う声が聞こえてくるのです。
「うん? お父さん? いや、まだそんな時間じゃないなあ。気のせいかな」と思い、教科書に目を移すとまた「おい!」と言う声が玄関から聞こえてくるのです。
 私の部屋は入り口から下を覗くと真っ下に玄関が見える仕組みなので、覗いてみると誰もいません。しかも鍵もかけていました。
 あれ? っと思いながら部屋の戸を閉めて音楽をかけながら宿題をしていました。
 この「おい!」と言う声は毎日夕方必ずありましたが、特に気にする事もなく過ごしてました。

 そんな矢先、やはり学校から帰って部屋で一人で宿題をしてると、階段を駆け上がってくる音が聞こえてきました。
「あれ? お母さん今日は仕事早く終わったのかな」と思い、部屋の戸を開けて「おかえり」と言おうとしたら誰もいないんです。
 そんな事が日々続いていており、両親に告げると「あぁ、よく階段の上り下りする音が聞こえるね~。まぁ古いからしょうがないよ」と父。
 母も「誰か遊びに来てるんじゃない?」と笑いながら言うので、
 そんなものなのだと我が家はそういう現象を気にしなくなりました。

 その年の夏の夜、私は部屋で窓を開けて本を読んでいました。
 私の部屋の窓は2か所ありましたが、ブロック塀で囲まれた側の窓を開けて、そこを背もたれにして本を読むのが好きで日課となっていたのですが、ふと視線を感じて振り返って見ると、お隣の家のベランダにおじいさんが立っていました。
 別棟と言う事もあり、普段会う事も無く挨拶もした事が無かったのですが、目が合ってしまったので軽く会釈をして、本をまた読み始めました。
 当時エアコン等私の部屋には無く、2階と言う事もあり夜は窓を開けて寝ていました。
 そのおじいさんは喘息持ちなのか、よく苦しそうな咳が毎晩聞こえてきてたので、気の毒だなあと感じてはいました。
 そんなおじいさんがベランダで夕涼みしてるって事は今日は調子がいいのかなあなんて思い読書に戻りました。
 すると、これまでにない強い視線を感じたのでまた振り返ると、隣のおじいさんがこちらを睨んでるんです。
「じじぃ、こっち見てんじゃねえよ」と内心思いながらも
「こんばんは」と明るく挨拶をして読書に戻ろうとしたとたん、違和感を覚えました。
 と言うのも隣と言っても我が家から斜め前に建ってるのでベランダも私の窓からは、かなり斜め前と言う事で、人が立っても正面に見える事はまず無いんです。
 でもそのおじいさんは私の正面に立っていました。
 おかしい、そんなはずは無いと思った瞬間、体が動かなくなりました。
 人生初の金縛りです。
 上半身をひねるようにして振り返ったので、顔は窓の外を見たままで体が固まったのです。
 金縛りの体験が無かった私はパニックになり、大声で親を呼びましたが声が出ません。
 すると、おじいさんが段々こちらに近づいてくるのです。
 物理的に無理な動きに、恐怖で口からはヒューヒューと声にならない声が出ていました。
 そして、近づいて来たおじいさんの顔が窓いっぱいに大きく広がったのを見て
「ぎゃあぁぁ~~!」と悲鳴を上げたと同時に金縛りが解けました。
 でも腰が抜けて動けなくて、体を引きずるようにして部屋の隅まで移動しました。
 窓いっぱいに広がったおじいさんの顔は真っ白で目は目玉が無く真っ暗な闇のようにぽっかりと空いてました。
 そして口がゆっくりと開き始めた時、再び「ぎゃあぁぁぁ~~!」と叫んで転がるように部屋を出て、階段から転がり落ちて玄関に倒れ込みました。
 母が「どうしたの?」と慌てて駆け寄って来たので、階段上を指差してガクガク震えながら、「と、と、隣のおじいさんが、へ、へ、部屋に入って来た。」と言うと、父は2階に上がって行きました。
 暫くすると父が戻ってきて「誰もいなかったぞ」との事でしたが、怖くて部屋には戻れず、その晩は両親の部屋に布団を敷いて寝させて貰いました。

 翌日、母がその隣に挨拶がてら様子を聞きに行ったところ、おじいさんどころか老人は住んでいないとの事でした。
 あのおじいさんは何者で何が目的で現れたのか今もって謎です。
 そして大人になった今でもあの時の顔を忘れる事はできません。

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