数年前、祖母の遺品整理をしていた時、古いアルバムが出てきた。

一緒に片づけていた叔母は懐かしがり、
私は幼い母や叔母、若くして亡くなった祖父の写真を面白がって見ていると、
若い祖母に抱かれた赤ちゃんの写真があった。
「この赤ちゃんはお母さん?」
そう尋ねると、叔母が答えてくれた。
「その赤ちゃんは、生まれ一ヶ月位で死んじゃったお兄ちゃん。あんたの伯父さんね」
「えっ、そうなの?」

初めて聞く話だった。
「母さん、あんまり話題にしなかったからね」
写真の中の祖母は少し微笑み、眠っている伯父を見つめていた。
「やっぱ、初めての子供だったし、辛かったんじゃない?」
何で亡くなったのかと私が聞くと、
「うーん。何で亡くなったんだろ?母さんは何も言ってなかったなぁ。
生まれた時から体の弱い赤ちゃんだったらしいし、今と違って医療も整ってなかったから。
なんたって60年も前の事だからね」
叔母はそう言って、アルバムを閉じようとしたその時、
「ああ、そう言えばね」とちょっと不思議な話をしてくれた。

昔、叔母が生まれたとき叔母の左頬に大人の親指でなすりつけた様な赤い痣があったそうだ。
「女の子なのに・・・」 と祖母は思ったそうだが、同時にある事を思い出した。
伯父が亡くなってしまった時、祖母は無力感で辛くて辛くて悲嘆にくれた。
そしてその小さな体を棺に納める時、最後にと伯父を抱いたそうだ。
自然とまた涙がこぼれ落ち、伯父の青ざめた頬を濡らした。
祖母は思わず、その涙を親指で拭いながら
「また、私の子に生まれてきてね・・・」 そう言ったそうだ。

「だから、私はお兄ちゃんの生まれ変わりなのよ」
叔母はそう言って微笑んだ。
確かに、涙を拭った跡が痣になるなんてどう考えても祖母の考えすぎかもしれない。
でも私はそうであって欲しいと思った。
その痣は数年経つ内、自然と消えたそうだ。 そんな話を聞かせてくれた。

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朗読: 怪談朗読と午前二時

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