知り合いのSさんから聞いた話です。
Sさんはその当時、とあるホテルの結婚式場でパートの仕事をしていました。
そこでは新しい企画として、お客さんにウエディングドレスを着てもらい記念撮影をするというイベントがありました。
もちろんその結婚式場のプロのヘアメイクさんとカメラマンさんが加わっていましたので、かなり本格的なものでした。
ケーキとお茶付きで金額は忘れましたが、そんなに高くなかったと思います。
私も友人とイベントに参加しましたが、ドレスはその式場の物では無く、Sさんが個人で持っているドレスを着させてもらいました。
そのウエディングドレスはSさんのお兄さんが、ある世界的に有名なデザイナーの会社に勤めていて、そこから手に入れた黒いウエディングドレスでした。
黒地の布に孔雀が、シックな色合いのビースとスパンコールと、金・銀や青の糸で描かれていて、後ろの裾は3m位あったと思います。
その裾に広がる孔雀の羽がとても優美で、変なゴテゴテした派手さは一切ありません。
本当に暗闇に幻想的に浮かび上がる様で気品があり、私は大満足でした。 さすが、有名デザイナ-さんがデザインした物だと思いました。
けれど、残念なことに私はモデル体型ではないので、後ろのファスナーは上まで上げることはできず、安全ピンで誤魔化しました。
また、ファッションショー用なので裏地がなく、着づらい服でした。
その後、そのドレスは来客者の何人かに使われたそうで、一人モデルさん並みの身長と体型の方が着られとても似合っていたのですが、その女性の方はかなり厄介な方で、メイクや髪の毛のまとめ方、カメラアングルと細かく注文が出て、撮影に時間がかかったそうです。
「自分が美人だから、キレイに取ってもらわなきゃって感じの人でね。ホント大変だったんだけど、写真データを見たら今度はカメラマンさんが頭を抱えちゃてね」
随分、自分に自信がある人なんだなぁと思っていると、お姉さんが額にしわを寄せて言いました。
「かなりまずい写真でね……」 とお姉さんが声を潜めていいます。
何の事かと聞くと、
「ほとんどの写真に白い光の線や煙のようなモノが入ってて、使い物にならなかったのよ」
特に、女性が後ろを見返すようなポースで後ろから長い裾を入れて写した写真が一番酷く、ちょうど女性の赤い口紅がずれて赤いラインになっていて……。
「まるで、口が裂けているようだったのよ」
そうお姉さんは言っていました。
「そ、そうなんですか。それはヤバイですね」
一瞬、私の背中にゾワッと寒気が走りました。
今まで着た人にそんなことはなく、お姉さんもそのドレスを着て自分の結婚式を上げたのですが、何事も有りませんでした。
そのお客さんには一番線の少ない写真を、加工修正して渡したそうです。
後の写真は失敗だったと言って。かなり相手は不満そうでしたが、色々菓子折やホテルで使えるクーポンを渡し、押し切ったらしいです。
明らかに霊障の様に思えますが、なぜそうなったのかは分りませんでした。
多分ですが、他に影響がないので、個性的な性格の彼女にまつわる事なのかもしれません。
そのダメだった方の写真は、カメラマンの方が処分したようです。
「まあ、以外と記念写真って良くある事なんだけどね」 と、お姉さんは恐ろしい事を言っていました。
そしてそのドレスは、今もお姉さんが保管しています。