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嗚呼、温泉旅館無常

この話は、もしかしたら、心当たりがある人がいるかもしれませんが、書かせていただきます。
最初に言っておきます、関係者の皆様、その節はお世話になりました。

小さい頃、夏休みになると、地域の小・中学校の有志を集め、植物採集や化石採集などの野外学習の集いの様なものがありました。
私は、毎年、この集いの一つのコースに行き続けていました。
そこで、使われる旅館が少し変わっていました。
というのも、そこはスキー場の近くにあり、夏場は企業研修やサークルの合宿、こういった学校関係の学習体験の受け入れを積極的に行い、収入を得ていたそうです。
実際、スキーシーズンに何度か行った事がありましたが、温泉もある為、かなり繁盛しておりました。

で、変わっているというのが、その学習体験期間中だけだと思うのですが、お風呂がランダムに変わるんです。
普通、男湯と女湯が日替わりで変わったりすることはあると思うのですが、そこは、その時期だけ、二日連続で男湯が同じ場所かと思ったら、急に男女が入れ替わったり、午前には女湯だったはずが、午後には男湯になったりと、すごく混乱しました。
なぜ、この時期だけかが解るかというと、冬のスキーシーズンに行った時は、そんなことがなかったからです。

それともう一つ、初日のミーティングの時、女の子だけ、なぜか、集められて短い追加注意の様なものを受けておりました。
当時、もう、毎年同じコースを選んでいるという事もあり、顔見知りもかなりの人数いたため、何の話をしているのか、聞いた所、
「期間中、脱衣場の鏡を極力使わず、各自の部屋で行う様に」
という話があっただけだそうです。
そのことを旅館のオーナー(毎年行くため、かなり親しくなってました)に聞いたことがありますが、苦笑いを浮かべ、誤魔化されるばかりでした。

そして、ある年、ついに好奇心に負け、深夜の女湯に忍び込もうと画策しました。
当時は、怖いもの知らずの悪ガキ一歩手前のような馬鹿でしたので、ちょっと覗いて帰るだけ、と思っていました。
…何度も入った事のある所でも、女湯というだけで、色々と暴発しそうになったのは、此処だけの話です。
で、皆が寝静まった頃、トイレに行くフリをして、風呂場への潜入を開始しました。
とはいえ、そう大きくない旅館でしたので、すぐに目的についてしまいました。
目の前にかかった女湯という暖簾があるだけで、もう、心臓はばっくばくでした。
「お邪魔しま~す。」我ながら何言ってるのか解らないのですが、そういって中に入りましたが、やはり、男湯の時に入ったのと同じ様な感じになっており、拍子抜けして帰ろうとしたとき、鏡の中に、何かが映っているのが解りました。 最初は自分の姿かと思ったのですが…、明らかに違います。
年の頃なら30代ぐらいの太めのおっさんが、こっちをものすごい形相で睨んでいるのです。
「うわぁ、うわぁわあゎあわ!」とものすごい声を出して外に出て、がたがた震えていると、見回りに来た先生に見つかり、どうしたのかと問われ、もう、おこられるとか、見つかったとか思う前に、「お化け、お化けが!」と舌を噛みながら、しがみついたと思います。
パニくった私を落ち着かせ、「全く、こんな時間に馬鹿な事を…」
と、言いながら、一応、中を見に行った先生が、「…ぅうわひゃぁ!」と飛び出してきたので、恐らく、同じものを見たのだと思います。

とりあえず、二人して落ち着きを取り戻し、お説教ワンセットくらって、その場は返されましたが、このことは一度、オーナーに聞いてみようという事で、落ち着きました。
というのも、この先生も、毎年、同じコースを選んできている、いわば、完全な顔見知りで、何度か「なんでここの風呂はあちこち変わるんだろうな?」と話し合った仲でもありました。

次の日、朝の清掃をしているオーナーに二人で事の経緯を話し、あの幽霊の事を聞いてみました。
オーナーは深く、大きなため息をつき、疲れた様子で話し始めてくれました。
「あれは、私の次男なんですよ。定職にも着かず、日々、部屋に籠っては、女湯に仕掛けたカメラの盗撮画像をにやにやと眺めるだけの大バカ者でしたがね。」
そこで、顔を見合わす私と先生、恐らく、同じ事を考えていたと思います。
『うん、犯罪者でダメ人間かな?』
「そんな日が続いていたんですが、流石に堪忍袋の緒が切れましてね。いい加減、働けと、働く気がないなら、せめて、旅館の手伝いをしろと、そして、盗撮をやめろと怒鳴り散らして、大喧嘩になった事があったんですよ。まぁ、それが効いたのかわかりませんが、旅館の手伝いをし始めたわけですが…。」
と、此処でオーナーが目を伏せて、何やら、切ない顔になり、
「この温泉の女湯の清掃を、必死にやるようになりやがりましてね。特に、中学生、小学生の女の子が入っている時に、堂々と脱衣場に入っていくようになりやがりまして…。一時期、大問題になったんですよ。」
この時、同じく顔を見合わせた私たち二人の顔は、やっぱり同じことを考えていたと思います。
『高レベルなロリコンかな?』
「で、変な噂がたって、客商売に影響が出ても経営が苦しくなるだけですので、別の仕事をさせて、風呂場には一切近づけない様にしたんですが…。まぁ、日ごろの不摂生が祟ったんでしょうか。冬場、風呂に入った時に、こう、心臓が、ね。止まっちゃったんですよ。」
此処で、また、一つ、大きなため息をつき、
「葬式も終わり、落ち着きを取り戻して、ね。正直、ね。息子とはいえ、手のかかる厄介な奴がいなくなって、ほっとした所もあったわけですが…。それから、風呂場で妙な話を聞くようになったんですよ。鏡に太った男が映るって、ね。すぐに察しましたよ。次男だって。」
もう、すでに怖さも、恐怖も吹き飛び、私たちも、同じような顔をしてたと思います。そして、同じことを考えていたと思います。
『こいつ、だめだ。早く何とかしないと。』
「これでも、何度かお払いもしてもらったんですよ。高名なお坊さんや、霊能力者という人にも、見てもらったんですが…。その方々曰く、『執着が凄い。生前、よほどの無念があったんでしょう』と、ね。離れないんですよ。そして、この時期は、丁度、あいつの好きな子供が沢山来る、でも、受け入れをやめると、この旅館をたたまなければならない…。大体、『お化けが女の子を覗くから、今年から受け入れできません』って言いったら、正気を疑われるでしょう?だから、少しでも被害が少なくなるよう、ああするしかないわけですよ。」
そこまで聞いて、オーナーも大変なんだなと、先生と二人で何とも言えない顔で部屋に帰りました。

その話を聞いて以降、私や話の分かる奴らにその話をして、温泉上がりに鏡にまぁ、色々と映して嫌がらせをしたのは言うまでもありません。
現在の私からみたら、よくもまぁ、祟られなかったなぁと思うわけなんですがね。
私は、中学を卒業し、その後も、しばらくは冬の時期に通いましたが、現在は、完全に疎遠になっております。
もし、心当たりのある人がいらしたら、今、どうなっているのか、教えてほしいです。
そして、これはこの話の最後だから言えるのですが、もし、私が死んだら、彼と酒を飲み交わしつつ、その鏡の向こうで意見を心行くまでかわしたいと思っております。
幽霊になっても、煩悩って消えないものなのか、どうなのか、を。

最後に、この文を読むにあたっての注意事項を書かせていただきます。
これは怪談ではありますが、ホラーではありません。
出てくる幽霊は、完全なダメ人間です。
それ以上でもそれ以下でもありません。 以上の事を念頭に置き、体の力を抜き、ポテチを食べながら読むことを推奨します。

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