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自動販売機

私が実際に体験してしまった事。
誰にも相談できずに心の奥深くにしまっているお話を長くなりますが、ここに書かせていただきます。

私は、某有名飲料水メーカーに勤めており、普段は自動販売機にジュースを補充して回る、ルートオペレーターをしています。
いつも通り、仕事をしていた日にその出来事に遭遇しました。
季節は秋から冬へと変わる頃で、自動販売機も夏仕様から冬仕様へと切り替える作業でとても忙しい、それに朝から降り続く雨風の影響で中々仕事が進まず、とても疲れていました。
気づくと時間は夕方の6時を回っていました。
天候に恵まれていれば、いつもはもう営業所へと帰宅し、次の日の準備をしているであろう時間でした。
時間を忘れて仕事の事しか頭になかった私は時計を見て焦りました。 
「あと1件だけ回って、後は明日の予定に詰め込もう…。」
本来なら後2件残っていたのでしたが、心身共に疲弊していた私には、回る気力がありませんでした。
雨で濡れた作業服をトラックの暖房で乾かしながら最後の自動販売機のある場所まで向かいます。

向かっている場所の自動販売機は、人気のない歩道にポツンと置いてあり、売り上げも余りなく、月に一度くらいしか回らないような自販機でした。 
昔は小さな商店があったらしいのですが、今は商店もやっておらず、契約主の、自販機だけは残しておきたいとの要望で、自動販売機だけポツンと残されているらしいのです。
回る身からしてみりゃ、売上より電気代の方が掛かってるんだろうし損してるだけじゃあないか…と思うような自販機でした。
トラックがなんとか入れるような狭い道へと曲がり、街頭に照らされた自動販売機が見えてきました。 
誰かがジュースを買っているようです。
「この自販機でお客さん始めて見たな…」
雨風が強い中、こんな中路の自販機に買いに来てるんだ。 
近所の人なんだろうな〜。
そんなどうでもいい事を考えながら自動販売機が左ミラーで確認できる所へトラックを停車させました。
「お客さんがジュース買ってどっか行くまで待ってるか…」
あのジュースこのジュースを入れろというお客さんがたまにいるので、なるべく接触しないようにしたいな…などと考えながら、自販機の前でジュースを買っていたであろう人が私へミラー越しに手招きをしています。 
お金が詰まってしまったのか、はたまたジュースが出てこなかったのかと思いすぐトラックを降り、車両右側から自販機へ向かいながら、
「どうかしましたか〜?」と声をかけた時でした。 
さっきまでいた人がいないのです。
辺りを確認してもどこにもいなかったのですが、その時は何故か特に気にする事もなく、近所の人なんだろうし、なんかあれば契約主から後日電話でもくるだろう。
と売れていた分のジュースを集め始めました。 
事が起きてから時がたった今冷静に考えてみると、この時点で異変に気がつくべきだったなと思いました。 
雨が降り頻る中、傘もささずに外に立ち、何故助手席側まで近寄って自分に声をかけることもなく、ミラー越しで手招きをしているだけだったのか、を。

ジュースを補充し終え、ゴミ箱から溢れかえっているゴミを片付け、足早にトラックに乗り込みました。 
時間がヤバい、早く営業所へ帰らないと怒られるなと思い急いでエンジンをかけ出発しようとした時、ミラー越しに人が映っている事にきがつきました。 
先程同様、こちらに手招きをしています。 
街頭と自販機の灯りに照らされ、はっきりとその姿を見てしまいました。 
膝が見えるほどまでビリビリに破けたズボンに白いTシャツ、口の辺りまで伸びたボサボサの髪の人がこちらに手招きをしています。 
男性なのか女性なのかはわかりませんが口はぽっかりと開いています。
この時私は、今まで経験した事のない悪寒と鳥肌に襲われました。 
はっきり姿は確認できていたのですが、今ミラー越しに見ているものはきっと生きているものではない。
この世のものではないと思い。 
急いでトラックを走らせました。
鼓動はとても速く、運転している手足が尋常ではないくらい震えていたのを今でも覚えています。

営業所へ到着してから上司に、顔色がとても悪いから帰った方がいいと言われた私は、今日起きた事も話す事もなく後の仕事を上司に投げ、帰宅しました。
帰りの車の中でも手足の震えは止まる事はありませんでした。
その出来事があってから数週間が経ち、誰にもその出来事を話す事が出来てないまま、私は休日に那須へ2泊3日の家族旅行に出かけていました。 
コロナウィルスの影響で長く遠出していなかった事もあり、旅行はとても楽しく過ごしました。
紅葉をバックに家族写真を撮ったり、地元では食べることのない、川魚などを食べたりして、幸せな時間を過ごし、帰路につきました。 

帰りの車の中で、撮ってきた写真を見返しながら楽しく談笑をしていた時でした。 
妻がいいました。
「この人凄いね〜、なんでこんなボロボロの服着てるんだろう。なんか夫(私)に合図送ってる…?ねえこれ気持ち悪くない〜?」 と。
私は運転していたので写真をすぐ確認する事が出来なかったのですが、その映っているものの正体がすぐにわかりました。
私に憑いているんだと。

朗読: 怪談朗読と午前二時


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