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神の湧く地域

30年ほど前、私の実家で起きた話です。
母親が中学生の頃、新しい家に家族丸ごと引っ越すことになりました。
新しい家は木造で、そこそこ古いものの、小綺麗な印象です。
玄関から入ると長い廊下があり、左手にはキッチンとトイレ、右手には居間と物置部屋があります。
物置部屋の奥には仏壇があり、その隣は母親が当時使っていた部屋でした。
2階は祖母と叔父と叔母がそれぞれ使っている部屋がありました。

最初は何も無かったのですが、引っ越して1ヶ月が経った頃です。
夜9時頃、当時中学生の母親は宿題をしていました。
すると、物置のほうから 「ゴトゴトッゴトッ!」 と重いものを運んでいるような音が聞こえて、母親は(祖母が何か持っていこうとしてるのかな)と思って手伝いに行こうと部屋を出ました。
廊下に出ても、音は続いていました。
しかし、物置のガラス戸を見ると電気がついていません。
おかしいと思いながらも、音は聞こえ続けていたので母親は思い切って物置の戸を開けました。
物置の中はしんとしていて、誰もいませんでした。
怖くなった母親はすぐに布団に潜って、しばらくして眠ってしまいました。

翌日、そのことを祖母に話すと、祖母も何度か体験しているようで、
「気にしないでね」「誰にも言わないでね」
と言われて母親はそれに従いました。
相談をしたその日、祖母と母親が居間で夕食の片付けをしていると、 「ポン」 と乾いた音が響きました。
まるで鼓をたたくような音だったそうです。
母親と祖母は目を見合わせましたが、さらに 「ピーーー」 という笛の音が聞こえ始めました。
それは居間と物置を繋ぐ襖の向こうから聞こえていました。
2人でしばらく固まっていると、叔父と叔母が音がうるさいと2階から降りてきました。
叔父と叔母は2人がラジカセなにかで音楽を流しているものだと思っていたので、固まっている2人を見て驚きました。
音はさらに大きくなり、時折男女の笑い声が聞こえてくるようになりました。
それはまるで複数の人間が宴会を催しているかのようです。
みんな逃げるように部屋へと戻り、それぞれが眠れぬ夜を過ごしました。

翌日、祖母が近くのお寺に相談すると、1人のお坊さんと共に帰ってきました。
そのお坊さんはすぐに物置の前に行くと、物置の戸を開けずに一礼して、短いお経を唱えました。
そして、袖から取り出した御札を戸に貼り付けました。
さらに物置に繋がる全ての戸に同じ御札を貼り付けました。
外にある窓でさえも。
それが終わって祖母が出したお茶を居間で飲んでいたお坊さんは、物置に居る「モノ」について語り始めました。
「あれは福の神なんですよ」 お坊さん曰く、この辺りは時々そういう神様が湧く地域らしく、そういう場合は今のように御札で封じ込めておくと、その家はとてもよく栄えるとのこと。
特に誰も使っていなかった家に人が住み始めたり、新居が建ったりすると現れやすいらしいです。
お坊さんは3軒ほど同じような家を見たことがあるが、どの家も栄えているらしい。
それを聞いて、家族は安心しました。

それからは夕食時にあの賑やかな音を聞いてもまったく気にせず、まして楽しんですらいたそうです。
しかし、お盆が近づくと、あの御札がどうしても邪魔になりました。
居間と物置の先が仏壇であり、仏壇に行けるもうひとつの部屋は母親の私室で、客人を通すわけにはいきません。
仕方なく、その御札を剥がすことになりました。
御札は簡単に「ペリペリペリ」と乾いた音を立てて跡を残さず剥がれました。
母親が裏側にのりがあったのかと触りましたが、つるつるして何もなかったようでした。
そして、御札を剥がしてからピタリとあの賑やかな音は止んでしまいました。

それからです。
他の分家との仲が急激に悪くなり、本家の次に偉かった実家は孤立しだしました。
さらに、家計が回らなくなって様々な弊害が出るようになって、家族間の仲も以前ほど良くなくなっていきました。
まさに没落といった具合で、私が生まれた頃には親戚とは絶縁状態、家族間の仲はそこまで悪くなくなったものの実家に集まることは無くなりました。

この前のほん怖で「神降ろし」の話を見ていたときに思い出して書き出したお話です。
当時の私の家族は福の神に敬意を払っていませんでした。
それが本当に我が家の没落に繋がっているのかは正直分かりません。
ただ私の地域は小さいながら不釣り合いに大きな屋敷や家があります。
この話を聞いてからというもの、そんな大きな家を見るたび、あの御札が貼られている部屋があるかもしれないと思うのです。

朗読: 怪談朗読と午前二時

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