習慣

 このお話は、小学生のころから体験していたことが、家を出て初めて気づいたお話になります。

 私は小学校にあがる前に、件の家に引っ越してきました。
 ある不思議な事に最初に気づいたのは、引っ越してすぐだと思います。
 私には双子の兄がおります。
 引っ越してすぐから、中学生になるまで一緒の部屋で過ごしておりました。
 私は子供の頃から眠りが浅く、少しの物音でも起きてしまう体質でした。
 その日はいつものように眠る時間になり、両親に「おやすみなさい」をして2階の自室へ兄と向かい、布団に並んで入り、うとうとしながらいつの間にか寝ていると、なぜか目が覚めて、遠くの方で小さく、ドン、ドンと太鼓の音のようなものを聞きました。
 ですが眠さに負けて、次の日には忘れていました。
 ですが、次の日も、次の日も聞こえてくるのです。
 一週間も経てば、その時間に嫌でも起きてしまうようになりました。
 意識がはっきりした時、初めてその、太鼓の音が怖くなりました。
 なぜなら、遠くの方で聞こえていた太鼓の音が、ドン、ドン、ドンドコ、ドンドコ、ドドドン、ドドドン、ドォーン、ドォーンと徐々に音が大きくなり、私の体の真上を轟音とともに過ぎて行くのです。

 私は 次の日双子の兄に太鼓の話をしました。するとなんと、兄も私と同じ体験をしていたのです。
 兄も聞いていたのだと、少し安心しましたが、兄は私と違って寝付きがいいので、時々しか聞いていなかったようでした。
 ある時、また同じ時間に太鼓の音が近づいてきたとき、何かいつもと違いました。
 太鼓の音がいつもの倍以上大きいのです。
 私は兄の方を向くと、なんと私の枕に、白い手首から上だけの手が置いてあったのです。
 私は兄を揺さぶりお越し、兄も太鼓の轟音に気づいて、二人で絶叫して階段をかけおりて両親に泣きつきましたが、私の両親は真面目で厳しく、全く話を聞いてくれませんでした。
 それからも何度か両親に助けを求めましたが、一度も取り合ってくれません。私たちは毎日耐えるしかなかったのです。

 時が過ぎ、私が小学3年の時、学芸会で「カルメン前奏曲」と言う曲を合奏しました。
 学芸会が終わった後、兄は友達の家にお泊まりに行き、私一人で寝ることになりました。
 私はまだ太鼓の音に悩まされておりましたので、「太鼓の音がカルメン前奏曲だったらいいのになぁ」と思いました。
 その夜、いつもの時間になるとふと目覚めて、あぁまたこの時間かと待ち構えていました。
 すると、いつもの太鼓の音ではなく、なんと、カルメン前奏曲が大音量で流れたのです!
 私は嬉しくなって、「もう全然怖くない、これなら毎日聞いてもいいなぁ」と思いました。
 そしてこれが、私が聞いた最後の日でした。
 どういう訳かそれから兄も太鼓の音が聞こえなくなったのです。

 月日が流れ、中学3年生になったときです。
 私はふと気づきました。
 夜10時になると、なぜか不安になり、なぜか毎日水を飲みに1階に降りていたのです。
 不安、と言うのは、部屋のどこにいても、大勢の気配が近づいてくる感覚です。
 空気中の静電気がざわざわと私の肌に触れるような、風もないのに大きな風が遠くから近づいてくる感覚。
 私は無意識のうちに、毎日特定の時間に部屋にいなかったのです。

 そのまま高校を卒業し、私と双子の兄は家から出ました。
 5年ほど経って、両親も私の職場の近くに引っ越してきました。
 同じ地区に住んでいた一番上の兄が遊びに来たとき、ふと私は太鼓の音を思い出しました。
 あまり鮮明に覚えていなかったので、両親と兄に太鼓の話をすると、一番上の兄が、「そういえば太鼓の音がうるさいって泣いてたなぁ」と呟きました。
 私はその時初めて太鼓の音と、水を飲んでいた習慣が一つにつながりました。
 太鼓の音と、水を飲んでいた時間が同じだったのです。
 音は聞こえなくなっていましたが、目に見えない大きな気配が毎日通っていたのです。

 きっとこれがいわゆる「霊道」と言うものだったのでしょうね。
 皆さんも、いつも続いてる何気ない習慣に目を向けてみてください。
 いつも避けてしまう道路や、時計をみたらいつも同じ時間。きっと何か真実が隠れていますよ。

朗読: 朗読やちか

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